無題






「藤原。何があっても騒ぐなよ」
矢田まさる【男子25番】は言った。
「そこの茂み。人がいる」
「!」
もう涙も出ない。
顔面蒼白になった藤原はづき【女子23番】は、歯をガチガチと
鳴らしながら、矢田のソデにすがりついた。
「ま、まさるくん……?」
「俺から離れるな」
正直言ってこわかった。でもここで負けるわけにはいかない。
矢田は支給されたトンプソン機関銃(旧式のマシンガン。命中精度は
それほどでもない)を腰だめに構え、目の前の「誰か」に向かって叫んだ。
「そこに隠れてるヤツ。出て来い」
「……」
「こっちにはマシンガンがある。10数える内に出て来い」
「まさるくん!」
「(黙ってろ)」
額の汗をぬぐって、矢田は目で合図した。
「俺を信じろ。ゼッタイに負けねえ」
この至近距離だ。撃てばきっと当たる。――反撃さえなければ。
矢田はもう一度叫んだ。
「出て来い。おどしじゃねえ。ホントに撃つ。10、9、8……」
「待ってくれ!撃つな!」
ガサッ!
茂みの中の人物が立ち上がり、大きく両手を上げた。
「撃たないでくれ!ケガ人がいるんだ!」
「お前……!」
矢田はトンプソンを降ろし、大きく目を見開いた。
「小竹!」
「小竹くん!」
二人は同時に叫んだ。
目の前にいる少年はまちがいない。
短く刈った髪型に、スポーツ焼けした肌。
サッカー部の小竹哲也【男子9番】だった。
小竹は自分の武器(安全ピンをつけたままの手榴弾)を投げ捨て、
必死の形相で懇願した。
「矢田!たのむ!撃たないでくれ!」
「撃つかよバカ」
矢田は苦笑して、トンプソンを投げ捨てた。
「元気そうだな。会えてうれしいぜ」
「お前もな。……藤原もいるのか」
「まァ、色々あってな。それより」
矢田は真剣な口調で言った。
「さっきケガ人がいるっていったな?誰だ?」
「お、奥山なんだ!」
「奥山さんが!?」
はづきが驚きの声を上げた。
奥山なおみ【女子6番】。大人びた体つきの少女である。
腕力なら男子にも負けないと豪語していた。その奥山がなぜ。
「……誰にやられた?」
「そ、それが――、」
小竹は言いにくそうに言った。
「長門かよこなんだ」
「長門ォ!?」
「奥山だけじゃねえ。SOSも殺られた。矢田、長門は……やる気だ」



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