無題
「どうして? どうしてわたしはいつもこうなの?」
聖堂からほど遠くない島の南側の斜面、その山道の途中で、
米国製の短機関銃・イングラムM11を抱えたまま泣きじゃくり続ける、
長門かよこ【女子17番】の姿があった。
その傍には、SOS三人の死体が散らばっていた。
撃つつもりなんかなかった。ただ猛烈に怖かっただけなのだ。
「おい、長門じゃないのか?」
背後から声を掛けられて、
かよこは振り向きざま、反射的に引き金を引いていた。
凄い反動だった。銃器など扱ったことのないかよこには、
狙いを定める余裕などなかった。
もちろん狙いを外す余裕も。
イングラムの射線はSOSの三人を射撃の的のように薙ぎ倒した。
おそらく即死だった筈だ。
三人に苦痛を与えずに済んだという事実が、僅かにかよこの心を慰めた。
他にも何人かその場にいたような気もしたが、
それが誰かを確かめる余裕などなかった。
かよこの発砲と同時に、生き残った者はクモの子を散らすように
逃げてしまったからだ。
右手にイングラムをぶらさげたまま、
かよこはフラフラと立ち上がった。
「謝らなくちゃ……。
追いかけてみんなに謝らなくちゃ、そうしないとまたみんなに」
嫌われてしまう。
いつの間にかかよこの左手には、SOSの一人、
佐川ゆうじの武器であったコルト1911A1が無意識の内に握られていた。
背中のナップザックの中には、
太田ゆたかの死体から回収した5個のMk2手榴弾があった。
「謝らなくちゃ、謝らなくちゃ」と呟きながら、
かよこはおぼつかない足取りで、南の海岸へと続く山道を降りて行った。
【男子4番 太田ゆたか 死亡】
【男子10番 佐川ゆうじ 死亡】
【男子11番 佐藤じゅん 死亡】
【残り57人】
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