無題
ちゅんちゅん・・・・ちゅん・・・・
「う、もう朝・・・・・・」
春風どれみ【女子21番】はスズメの音に目を覚ました。
昨日あれから玉木れいか【女子16番】とともに山の展望台を目指して歩き、
何とか無事に辿り着くことができた。
そして最上階の展望室まで上り、そのまま寝入ってしまったようだ。
ふと横を見ると玉木が静かに寝息をたてていた。普段は憎たらしいと思うことも
ある顔だが、こうしてみると愛しく思えるほどだった。
額に触れてみると、熱がまだあるのがわかる。それに足のほうもハンカチに添え
木を当てただけだから、とても安心できなかった。
「このままじゃ、玉木が歩けなくなっちゃう。こうなったら・・・」
どれみはまず、玉木を起こすことにした。
「玉木、おきてよ玉木」
「春風さん、どうなさったの・・・・・」
玉木は熱のせいか、まだ意識がはっきりしてなかった。
「玉木、これから薬を探しに行くから、玉木はここで待ってて」
「そんな!?わたくし一人でここにいろとおっしゃるのですの」
玉木はあわてて起き上がろうとしたが、足の怪我の生でできなかった。
「そんなにあわてないで、薬を見つけたらすぐに戻るから、それまで大人しくして
なよ。このライフルも置いていくから」
玉木はしばらく考えていたが、すぐに決断した。
「わかりましたわ、ですがライフルは必要ございません。春風さんがもってゆきな
さい」
「!?そんなのだめだよ、玉木一人でこんなとこに置いてゆけないよ」
「わたくしならここに隠れていますから大丈夫ですわ。むしろ外に出て行く春風さ
んの方が危険ですわ」
「でも・・・やっぱり」
「大丈夫、わたくしは児童会長なんですから・・・・・・」
「玉木・・・・・・」
それはどれみが今まで見たことがない、心の奥底から笑った玉木の笑顔だった。
やがて、どれみは玉木に見送られるように展望台を出発した。
どれみが出て行ってから、玉木はしばらくうとうとしていたが、やがてヴィーンと
言う音がしたので、エレベーターが動いているのがわかった。
誰か来ると思ったが、ほとんど動くことができない。
一応はカウンターの下に隠れてはいたが、覗き込まれたら終わりだ。
玉木は震える手で、バタフライナイフを握り締めながら見つからないことを祈っていた。
チィーン、乾いた音ともに扉が開いた。
「玉木さーん、いるんでしょう」
「この声は長門さん」
入ってきたのはクラスメイトの長門かよこだった。
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