無題
「あ、ダメよ、しおりちゃん」
小泉まりな【女子10番】は中山しおり【女子18番】が摘んだ、青い花を咲かせた野草を取り上げた。
「これはトリカブト……ニリンソウと似てるけど、根に強い毒があるの。
もし間違えて食べたら、大人でも死んじゃうわ」
「小泉さんってすごいなあ、植物のことならなんでも知ってるのね」
しおりに尊敬の目を向けられて、まりなは照れた。
「そんな……。花の名前をおぼえるついでに、野草のことも少しは知ってるだけだから……」
「だって、わたしが助かったのも、小泉さんと岡田さんのおかげだもの」
「うふっ、応急処置ならわたしに任せてね」
二人の会話を聞いていた岡田ななこ【女子5番】が笑った。
しおりの折れてしまいそうに細いくるぶしには、ななこのハンカチが巻かれている。
「ルルの傷の手当てで、慣れてるから」
「ひどいなあ、岡田さん。わたしはウサギと一緒なの」
「あはっ、ごめんごめん」
まったく、女は気楽でいいよなあ。
無邪気に戯れあいながら野草を集めている少女たちの側で見張りに立ちながら、
木村たかお【男子8番】は溜息をついた。
参加者に支給された食料は、三日分のパンと水の入ったペットボトルだけだった。
体力の維持だけならこれでも充分なのだろうが、
三度の食事がパンばかりだと考えると、文字通り味気ない。
だから自炊の設備が残されたコテージを発見した時に、
小泉まりなは野草で手料理を作ると提案したのだ。
木村には、こんな状況で料理なんかしようという人間の気が知れなかったが、
嬉しそうにはしゃいでいるまりなの姿を見ると、反対できなくなってしまう。
しかし、中山を撃ったヤツも近くにいるのだ。注意するに越したことはない。
木村は腰のベルトに挿した自動拳銃・ブローニングを用心深く確かめた。
これはもともと小泉まりなの武器だったのだが、今は木村が預かっている。
足に負傷している中山しおりを発見した時には、本当にどうしようかと思った。
幸いにも傷は浅く、まりなが集めてきた薬草を使ってのななこの応急処置で、
当座はしのげそうだった。
そうだ、確か中山はショットガンでやられたとか言っていた。
襲撃者の姿は見えなかったらしい。一体誰にやられたのだろう?
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