無題
「……で、これはどういうことだ?」
血に塗れたままの蛮刀をぶら下げた長谷部たけし【男子18番】が、
林野まさと【男子29番】に問い掛けた。
二人の足元では、2組の飯塚けんた【男子2番】が、
右肩を胸の半ばまでざっくりと切り裂かれ、
首筋にはボウガンの矢を深々と突き立てて、死んでいる。
銃で武装した飯塚が近くにいると林野に聞かされた時、
今の装備では先制攻撃を掛けない限り勝ち目はないと長谷部は考えた。
だから、萩原たくろう【男子17番】を含めた三人で奇襲を掛けたのだ。
飯塚がほとんど無抵抗のままで死ぬまで、十秒とかからなかった。
長谷部は飯塚の死体が握り締めている玩具のブーメランを取り上げると、
林野に突き付けた。
「林野……飯塚が銃を持ってるって言ってたのはお前だぜ?
これのどこが銃なんだ?」
林野は肩をすくめた。
「すまない、見間違えたんだ。
遠くからだったし、何しろこの暗さだろ? 仕方ないよ」
その言葉通り、島には早くも夕闇の気配が訪れつつあった。
「俺、イヤだよ……人殺しなんて……」
萩原たくろうが涙目で言った。
飯塚けんたの致命傷となったのは、萩原の放ったボウガンの矢だった。
「長谷部だって、武器を持ってない相手や、
無抵抗の相手は、すぐには殺さないって言ってたじゃないか……」
「……何度も言わせるな、萩原!
ゲームに勝ち残るには、俺は俺以外の全員を殺さなけりゃならない。
それが遅いか早いかの違いだけなんだ!」
長谷部は萩原に詰め寄ると、蛮刀の切っ先を相手の喉元に向けた。
「なんだったら、お前との決着は今ここでつけてやってもいいんだぜ!」
「落ち着きなよ、長谷部くん」
林野が長谷部の肩に、なだめるように手を置いた。
「今回のは不幸な事故なんだ、誰かが悪いわけじゃない。
そりゃ、飯塚くんは気の毒だったけど、運が悪かったのさ」
長谷部は無言のまま、林野に冷たい一瞥を投げ返した。
誰も頼りにできなかった。誰も信用できなかった。
長谷部はふと、美空町で小料理屋を切り盛りしている自分の母親のことを考えた。
もう美空町では、母さんが店を開けている時間だ。
さすがの母さんも、今日は店を休んでいるんだろうか?
いや、気丈な母さんのことだ。
こんな時だからこそ、いつものように店を開いてるかもしれない。
心配しないで、母さん。俺、必ず帰るから。
他のやつらを皆殺しにしてでも、俺、絶対に帰ってやるから。
【男子2番・飯塚けんた 死亡】
【残り45人】
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