無題






「SOSの荷物の中に、銃と手榴弾はなかった」
偵察から戻って来た矢田まさる【男子25番】は、小竹哲也【男子9番】に話しかけた。
「おそらく、長門が持って行ったんだろう」
「まったく! ナントカに刃物ってヤツだよな!」
小竹は忌々しげに言った。
「早いとこ見つけ出さないと、アイツ、まだまだ殺しかねないぜ!」
「ああ、ところで」
チラリと傍らに視線を走らせると、まさるは尋ねた。
「奥山の具合は?」
二人のそばでは奥山なおみ【女子6番】がナップザックを枕に、ぐったりと地面に横たわっていた。
目を閉じていて眠っているように見えるものの、息は荒く、全身にびっしょり汗をかいている。
足と脇腹にきつく巻かれたスポーツタオルには、血が染みていて痛々しい。
「よくない」小竹は顔を曇らせた。
「出血がひどいんだ……。今は落ち着いてるみたいだが、このままじゃヤバい」
「そう言えば藤原は? 近くにいないみたいだが……」
「その辺の民家から、傷の手当てに使える物を探してくるとか言ってた」
「長門がまだこの近くにいるかもしれない、一人きりにするのは心配だ」
まさるはトンプソン機関銃の吊り紐を肩に回し、立ちあがった。
「お前はそのまま奥山についててやってくれ。
 俺は何か使えそうな物を探しがてら、藤原を迎えに行く」
「ああ、気を付けろよ」

      *          *

三人のいる位置からは木の影になって見えなかったが、
そこから森の中へ20メートルばかり踏み込んだあたり、
声を押し殺してすすり泣いている長門かよこ【女子17番】の姿があった。

あの人たちはわたしを殺す気だ!
たとえわたしが地面に頭をこすりつけて謝っても、
あの人たちは容赦なく、犬みたいにわたしを撃ち殺すだろう。

ひどい吐き気がした。
口を押さえながらフラフラと立ち上がりると、かよこはそっとその場を離れた。
しばらく歩いてからかよこは地面にうずくまり、
さっき無理して食べたばかりの食料を、全部その場に吐き戻してしまった。

唇に付いた汚物を拭いながら、かよこはさっきのまさると小竹の会話を思い出した。
そうだ、はづきちゃんがいるって言ってた。はづきちゃんのところへ行こう。

はづきちゃんはどれみちゃんの友達だ。
きっとはづきちゃんなら分かってくれる。



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