無題






瀬川おんぷ【女子14番】は反射的に銃を向けた。
「誰っ?誰なのっ!?」
「わわわ、私よ瀬川さん!う、撃たないで!」
両手を上げて飛び出して来たのは、メガネをかけた小柄な少女――、
島倉かおり【女子13番】だった。
「島倉さん!?」
「せ、瀬川さん、よよ、よかった……」
知り合いを見つけて安心したのか、かおりはへなへなと崩れ落ちた。
その手にはバタフライナイフが握られていた。
おんぷは自分の銃(日本の警察が使うニューナンブ。ご丁寧なことに
最初の一発は空砲になっている)を降ろし、ほっと安堵のため息を吐いた。
島倉かおりは「とくに仲のよい友だち」というわけではなかったが、
とにかく同じ女子である。男子生徒よりはいくらか信用ができた。
おんぷはたずねた。
「島倉さん?一人?」
「あ、あっちに玉木さんがいるの……」
かおりは震える声で言った。
そして、自分のナイフを指差して、
「ここ、これは、ホントは玉木さんの武器なの。私に支給されたのは……」
その言葉が終わるより早く、絹を裂くようなかん高い悲鳴が響き渡った。
「きゃーっ!」
「!」
「た、玉木さんの声だわ!」
青ざめるかおり。瀬川がニューナンブを構え直した。
「島倉さん!玉木さんの武器は何なの!?」
「プ、プラスチック爆弾よ!」
「爆弾!?」
「ででで、でも、発火装置がついてなかったから、私のカメラを改造したの!
 間に合わせの発火装置だから、使えるかどうか分からないけど……」
言われて初めて気がついた。
かおりが、いつも肌身はなさず持っているカメラを手放していることに。
どうやら一度分解して、その配線をつなぎ合わせたらしい。
おんぷは絶句した。
「できるの!?そんなこと!?」
「わ、私には分からないけど、玉木さんが『きっとできますわ!』って……」
「……」
あの少女なら言いそうだ。
おんぷはあの高飛車な玉木麗香【女子16番】の顔を思い起こし、
こんなときだと言うのにクスリと笑ってしまった。
「それより、玉木さんが心配だわ。急ぎましょう」
「そ、そうね!」
かおりがあわてて立ち上がり、震える手でナイフをつかんだ。
どーん、という爆音が聞こえてきたのは、それからすぐあとのことだった。



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