無題






タァァァン
バサバサッ ガアッガァ!
銃声に驚いたカラス達が一斉に飛び立ち、空を円舞する。
まるで誰かを弔うかの様に──
銃口から生々しく硝煙を漂わせた38年式歩兵銃を構えたまま、
万田ようこ【女子27番】は小川の流れにべちゃりとへたり込んだ。その
傍らには右手に何か棒状の武器を握っていた飯田かなえ【女子2番】が
突っ伏している。銃剣の刺さった恰幅の良い腹と、たった今ライフル弾
で打ち砕かれた側頭部からの血が清流を汚しつつある。
(ころした。ひとをころした)
かなえの鬼気迫る表情、それが半ば吹き飛ぶ瞬間が何度もようこの脳裏
でリピート再生された──呻き声が聞こえるまで。
ハッとして振り返ると、左上腕を押さえた万田じゅんじ【男子21番】が
ようこと同じ顔を苦痛に歪めていた。
「じゅんちゃん!」
歩兵銃を持ったまま、ようこが駆け寄る。
「じゅんちゃん!腕──」
「折れ…てる…みたい……」

川沿いを歩いていた万田姉弟は不意に飯田かなえと遭遇した。歩兵銃を
構えて誰何しようとしたじゅんじは、かなえのナイトスティックに誰か
の血が付いていたのを認めると思わず絶句した。
かなえが身体をわなわなと奮わせ、じゅんじに襲い掛かったのはその時
だった。頭への命中は逃れた物の、左腕に衝撃を受けると歩兵銃を取り
落とした。じゅんじは銃剣(着剣していなかった)をかなえの脇腹に突き
立てたが、厚い脂肪に阻まれて抵抗力を奪うまでは至らなかった。
かなえが馬乗りでじゅんじの顔にナイトスティックを振り下ろす刹那──
ようこは拾い上げた歩兵銃の銃口をかなえに向け、引鉄を引いた。
タァァァン

【女子2番・飯田かなえ 死亡】
【残り52人】




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