無題






巻機山 花【女子24番】は小川に沿って歩いていた。水面に陽光が反射して眩しい。
「ハ〜ナちゃん!」
声のする方向には飯田かなえ【女子2番】が、土手に腰を下ろしていた。
一緒に食べない?とおにぎり(かなえの「私物」)を薦められたので、横に座る。
その時、かなえの右腕二の腕にハンカチが巻かれているのに気付いた。
「どうしたの?」
「…え? 転んじゃったのよ。ほら、わたしって運動神経ニブいから」と言って笑う。
ハナも「そうだねぇ、あはははは」と笑って…しまった。
──ここは笑っていいのかな?
目をうっすらと開けてかなえを見ると、笑っていたので、やっぱり笑う事にした。

おにぎりは食べ終わってしまった。
ハナはかなえが動こうとしないので、その場にとどまっていた。
上半身を前後に揺すりながら、先ほどから気になっていた事をかなえに聞いてみた。
「…ねえ、かなえちゃん。『ころしあい』って…なぁに?」
かなえはゆっくりとした口調で
「ハナちゃんには分からなくていい事だよ」と言った。
「え…でも…」と言を繋ごうとすると
「ねえ、ハナちゃん!あの雲、ソフトクリームに見えない?」と空を指さした。
「え?え? ホントだ!じゃあ、あの雲はプリン!プリン雲!」

「それでね、それでね、あれはステーキ雲!どれみが見たら喜ぶだろうなぁ…
 そういえば、かなえちゃん家ってステーキ屋さんだよね!
 食べてみたいな〜 かなえちゃんちのステーキ!」
「……そうだねぇ うちのステーキはとってもおいしいんだよ。
 今度ハナちゃんも食べに来てよ。サービスしてあげるから」
──その表情が沈んでいる事にはしゃいでいるハナは気付かない。
「え?ホント?うれしい〜♪」

…やっぱりかなえは動こうとしない。話題も途切れてしまった。
「…ハナちゃん、どれみを探しに行く」 そう言って立ち上がった。
「…わたしも一緒に探してあげるよ」そう言って歩き出した。
ハナがいる側の反対側の手にナイトスティックを持って。

しばらく一緒に歩いていて、ハナが小川で跳ねた魚に気をとられて数歩遅れた時…
何かの物音(バッグが落ちた音)と共に、かなえがハナに向かってこう叫んだ。
「ハナちゃん逃げて!」と。
ハナの返事を待たずに、かなえはハナを突き飛ばしていた。
文字通り転がり小川の淵ギリギリで止まるハナ。
身体の痛みに耐えるハナの耳に、悲鳴と銃声が聞こえた。

──辺りに静寂が戻ってから、ハナは恐る恐るかなえを探してみた。
見当たらなかった。



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