無題






長谷部たけし【男子18番】が持っていたのは刃渡り30センチ強の蛮刀だった。
森林の中で道を切り開くのに使っていたらしく、鋭い刃には草の汁が付いている。
萩原たくろう【男子17番】の方は、ボウガンを用心深く構えている。

林野まさと【男子29番】は素早く現在の状況を分析した。
気付かれたのか!?
いや、二人の様子から察するに、まだ真相を知るには至っていない。
しかし、この倉庫の罠では二人を同時に引っ掛けるのは無理だ。
よしんば一人だったとしても、萩原ならともかく、
長谷部がこんなちゃちな罠に引っ掛かるとは思えない。
ならばいっそのこと……! 林野の頭の中に一つのプランが浮かんだ。
一瞬でここまで考えを巡らせると、林野は手を震わせ、大げさに青ざめて見せた。
「長谷部、萩原……! 大変なんだ……! 和田さんが……
 和田さんだけじゃない、他にも大勢、この倉庫の中で、死んでるんだ……」

「……ヒッ!」
萩原は階段の穴からみんとの死体を一目見下ろすと、悲鳴を上げて目をそむけた。
長谷部の方は死体に目をやると、林野の方を向いて何かを言おうとした。
先に言わせてはまずい!
「君たちが……やったのか……?」
自分が言おうとしたセリフを林野に言われたことで、長谷部は気色ばんだ。
「なんだと? 林野、てめえ……!」
「すまない、こんな光景を見た後に、君たちに会ったものだから……、
 偶然とは思えなくて……。今の言葉は取り消すよ、忘れてくれ」
林野は大きく深呼吸した。
「一人でいると不安なんだ。僕も一緒に連れて行ってくれないか?
 少なくとも、足手まといにはならないつもりだ」
林野の提案を聞いて、長谷部は鼻先で笑った。
「お前、そう言って、三日目の午後11時50分になってから、
 俺たちを後ろから撃つつもりなんじゃないのか?」
「ま、まあ待てよ、長谷部」萩原がその場を取りなした。
「俺は林野なら信じてもいいと思うんだ。
 どっちにしろ、仲間は多い方が心強い……そうだろ?」
「お前に会った時に言った事をおぼえてるか? 萩原」
長谷部は萩原を横目で睨むと、冷たく言い放った。
「『俺はお前を信用したわけじゃない』……今だってそうだ。
 お前と一緒にいるのは、今はその方が俺にとって都合がいいからだ。だが……」
長谷部は林野の方に向き直り、蛮刀を下げた。
「いいだろう。二人でいるより三人の方が、互いに裏切りにくいからな。
 ……しかし、忘れるな。俺たちの他に誰もいなくなったら、俺は容赦なくお前と戦う」

「でも、今は仲間だ」林野はニッコリと微笑むと、二人の肩に手を置いた。
「よろしく頼むよ」



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