サブマシンガンについても教えてくれ






暗闇の中、偶然遭遇した若者を見るなり、鷲巣は狂気染みた笑みを浮かべた。
異様な姿のまま、慌てる若者の前で仁王立ちする鷲巣。


ククク……わしの姿は一見、いや、どう見ても……正気を逸した変人のように見えるだろう……!
だが、これがベスト……!これこそが最良の装備……!見た目こそはちと悪いが……
その性能はピカイチ……!ククク……やはりわしは帝王なのだ……!
神に選ばれし無敵の王……!ククク……見ろ……!あの才も知もないクズが呆然と立ち尽くす様を……!


「…………」

少年は言葉を失っていた。市街地を恐る恐る歩きまわっていると、突然出くわした異形の老人。
何よりもその外見に、少年は大いに驚愕した。
何かのコスプレなのか、老人の身を包んでいる衣服はどう見ても正気の沙汰ではない。
老人の老けた顔とそのコスプレ服はあまりに不釣り合いである。
何を思ってあの衣服を身につけたのか……あの服は支給品なのか?
そんな事を考えていると、突然、少年は何かを思い出したかのように表情を一変させた。

「思い出した……それはバトルジャケット!!」
「? あ〜〜〜〜〜〜〜?」

鷲巣は、少年が突然自分が着ている戦闘服の名を言い当てた事に、少なからず動揺する。
そんな鷲巣を尻目に、少年は一片の迷いもない威風堂々とした態度で、口を動かす。
少年のあまりの早口に、鷲巣はつい呆然としてしまい、図らずも聞き入ってしまう。





     _   _l l_   _l l_              
   //[][]  ̄l lニ、ヾ   ̄l lニ、ヾ _l l_          
   ヽヽ-,   く ノヽ-ゝ   く ノヽ-ゝ  ̄l lニ、ヾ            
      ̄                 く ノヽ-ゝ
     ヽ、       /ニニヽ              /
       ヽ_      / o  o l            /
       \\.   く u_'_ ゝ           ,'
         \\_/ '――‐' |_          l   防弾チョッキは某国銃社会のためか何度も改良されてきたし
           ,k´ \l ̄ ̄ ̄/::::::::l`ヽ、       i     素人から軍人まで幅広く使われているとっておきの防具
         /| ↑、 /\_.ノ:::::::::::ヽ  ヽ     |    対してバトルジャケットは性能なんかは防弾チョッキの比にならねぇくらい高いが
.        / | /:::::::::\/ヽ:::::::::::::::::::', ! `、    |    あえてフリーザ軍にしか着用出来ない分
       / l/:::::::::::::::::::`ヽニ=::::::::::::::V   i   <    入手難度をかなり増加させて
.      / /::::::::::::::::::::::::::::::\\:::::::::::::ヽ   |   |    着るよりもフリーザ様に忠誠を誓う事を目的とする奴がいる?くらいの
      /  i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\\:::::::::::i  !  |    異星人好みの珍し過ぎる防具
     /   |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\\:::l´  \ .|    半端な偽物だとジャンプを服の中に仕込むより弱い
.    / -、  |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ 刃―、-゙ |    ただの肩パット付き全身タイツみてぇなもんだってのに
    ´/   Y:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`メ,   ヽ、|    何であのジジイは?
    /   /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|    | ',
.   /  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ   |  ヽ
  /  /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ  |   \





「やかましい……!」
「うわああああ!!!」

鷲巣は腰に下げていた如意棒を抜き、少年に殴りかかる。
少年はとっさに両腕で体を防御。肉を打つ鈍くて耳障りな音が響き、少年はあまりの痛さに叫び声を上げる。

「キキキ……わざわざ説明してくれたか……!礼を言うぞ……!」
「……くそぉ……お前、お前殺し合いに乗ってやがるのか!!」

少年の問に、恐ろしい表情でけたけた笑い答える鷲巣。少年へと距離を詰めてくる。
少年は痛む腕をもう片方の手で押さえながら、必死になって近くの建物へと逃げる。
鷲巣はゆっくりと、決して慌てずに悠々と少年を追いかける。
キキキとか、コココとかいう笑い声が酷く不気味だ。

「はぁはぁ……クソッ!」

伸びてくる如意棒を間一髪のところで避け、建物の中に逃げ込む。
扉に鍵を閉めようと考えたのだが、鍵は取り付けられていなかった。
おそらく、建物の中でひたすら籠城するのを防ぐため、主催者が手を回していたのだろう。
荒く息を吐きながら、少年はクソ!と悪態を吐く。それと同時に、建物の窓から、伸びてきた如意棒が飛びこんで来た。

「うおお!!」

またもや間一髪の所で如意棒を避ける。
それにしてもあのジジイ。バトルジャケットに加えてあんな武器まで持っているとは、なんて強運だ。
少年はそこまで考えた後、ふと思い出す。あの伸びてきた棒……あれはまさか……

「あれは、如意棒か!」

窓ガラスを砕きながら飛び込んでくる如意棒をかわしつつ、少年は確信した。
そして逃げながら言う。



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   //[][]  ̄l lニ、ヾ   ̄l lニ、ヾ _l l_          
   ヽヽ-,   く ノヽ-ゝ   く ノヽ-ゝ  ̄l lニ、ヾ            
      ̄                 く ノヽ-ゝ
     ヽ、       /ニニヽ              /
       ヽ_      / o  o l            /
       \\.   く u_'_ ゝ           ,'
         \\_/ '――‐' |_          l   棍棒は単純な作りの分あつかいやすいし
           ,k´ \l ̄ ̄ ̄/::::::::l`ヽ、       i     猿人から警備員まで幅広く使われている古代からの基本武器
         /| ↑、 /\_.ノ:::::::::::ヽ  ヽ     |    対して如意棒は見た目なんかは棍棒とほとんど変わらねぇが
.        / | /:::::::::\/ヽ:::::::::::::::::::', ! `、    |    棍棒のようにただ振り回すだけじゃない分
       / l/:::::::::::::::::::`ヽニ=::::::::::::::V   i   <    硬度と長さをかなり増加させて
.      / /::::::::::::::::::::::::::::::\\:::::::::::::ヽ   |   |    振るよりも伸びる事を目的とした
      /  i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\\:::::::::::i  !  |    玄人好みのあつかいにくすぎる棍棒
     /   |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\\:::l´  \ .|    使いこなせねぇと月まで伸びちまう
.    / -、  |::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ 刃―、-゙ |    ただの竿竹みてぇなもんだってのに
    ´/   Y:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`メ,   ヽ、|    何であのジジイは?
    /   /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|    | ',
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二度目の長すぎる説明に、さすがの鷲巣もポカーンとするが、やがて平静を取り戻し、挑発するように声を上げる。

「カカカ……!これは驚いた……!ずいぶんと博識じゃないか……!」

如意棒を伸ばし、建物の扉を吹っ飛ばして鷲巣は室内に侵入する。
やられっぱなしの少年だが、彼とて刀社会を生き抜いてきた生粋の侍。
やられてばかりではない。支給品である拳銃を鷲巣に向け、引き金を引いた。

「むっ!!」
「やったか!?」

弾丸は鷲巣の心臓部に命中。それを見て少年は歓喜の声を上げる。
が、しかし、当の鷲巣本人はけろりとしている。
フリーザ一味の科学力の結晶、バトルジャケットは、拳銃の衝撃を全て吸収し、傷一つ付いていない。
生半可な攻撃では鷲巣を倒す事は出来ない。

「ククク……残念だったな……!わしが持つ最強の『盾』……!
 お前のちんけな『矛』では貫けはせん……!ククク……キキキ……コゥコゥコゥ……!!」
「…………!?」

少年の顔は一変して絶望に染まる。鷲巣は自身のデイパックに手を突っ込み、
最悪の武器、サブマシンガンを取り出したのだ。

「ちくしょおおおおお!!!」

少年は全速力で奥の部屋へと飛びこむ。ドアを閉めるのを忘れない。
その直後、サブマシンガンのぱららららという音と共に、弾痕が走るように出来上がる。
逃げ惑う少年の姿を見て、鷲巣はますます喜色に顔を歪ませた。
狂人としか言いようのない声色で、少年をあざ笑う。

奥の部屋に逃げ込んだ少年は、狂人が部屋に入るのを、唯一の武器、拳銃を握りしめて待ち構える。
決着の時は近い。


(狂人め……!)

少年は心の内でそう毒づいた。

あの老人は明らかに弱者である俺を甚振るのを楽しんでいる。
初めからサブマシンガンを撃たれていたら、俺は一瞬で死んでいた。
それをせずに、まずは素手、次に如意棒、そして最後にサブマシンガンと、見せつけるように順番に出していったのは、
俺が怯える様、逃げ回る様を見たいからだろう。その証拠に、あの老人は今、これ以上ないほど楽しそうに笑っている。

少年はますます強く拳銃を握りしめる。

こんな拳銃ではあのバトルジャケットを貫通させる事なんて到底出来ない。
狙うのはただ一点、バトルジャケットに覆われていない、ジジイの顔。
それだけが、あの怪物染みた豪運を持つジジイの唯一の弱点。俺に残された最後の勝機。
銃なんかより刀の方が扱い慣れているが、ここは覚悟を決めるしかねぇ……!
こんなところで訳の分からないうちに殺されてたまるか……!

覚悟を決めた少年は、ただ一つの扉に向けて銃口を向ける。
鷲巣が入ってくるとしたら、あの扉以外にない。


さあ────来やがれジジイ!!
サブマシンガンの説明もしてやりたいところだがもういい!!


鷲巣は狂ったような高笑いを上げながら、扉へと足を進める。
老人の頭の中にいまあるのは、彼が食い物としている若者をどんな方法で殺すかという事のみ。
なるべく苦しく、残酷に、生に縋る悲壮な叫びを聞きながら、少年の息の根を止めたい。
鷲巣の頭の中には今、それ以外にない。


ククク────

訳の分からん殺し合いに参加させられ、初めはどうしたものかと戸惑ったものだが、なんという事はない。
結局はわしの勝利……サブマシンガン、バトルジャケット、如意棒……
数々の素晴らしい武器達は……王であるわしの勝利を約束しておる……!

あの主催者の男は完全にわしを嘗めている……!
永遠に勝ち続ける運命じゃと……?かっ……カカカカカ!
わしは必ずやこの殺し合いを制し、あの男に格の違いとやらを教えてやるのだ……!
わしはその運命にある……!わしこそが常に勝ち続ける運命にある……!
若さだけが取り柄のクズどもなど、いくら殺してもかまわないのだ……!

鷲巣は、右手にサブマシンガンを握りしめ、左手に如意棒を握りしめ、
部屋の扉の前に立ち────



来る────

なんとも言えぬ気配を察知し、少年は拳銃を持つ手に力を込める。
そして、扉が開き、何かが飛び込んでくる。それは────


「ぐえぁっ!」


如意棒だった。伸びてきた如意棒は少年の顔面に直撃し、脳漿と血液を派手にぶちまける。
鷲巣は扉を開けようとした時、えも言えない『何か』、つまり少年の殺気を感じたのだ。
その鋭い殺気は、鷲巣に扉を開き中に侵入する事を躊躇わせ、如意棒を使って少年を『甚振る事』を選ばせたのだった。

少年の息はもう切れていた。鷲巣はそれでも、少年の体を如意棒で何度も何度も嬉々としながら突きまくった。

「キキキキキ……!」

狂人はしばらくの間若者の死体を甚振り続けた。
冴えわたる説明を二度もこなした少年の顔面は、如意棒で突かれるたびに、醜く歪んでいった。

▼ ▼ ▼

結局は出来レース……わしが必ず勝利する……!
が……不安要素がないわけではない……奴の存在……赤木しげるは十二分に警戒しなければならない……!
あの悪魔は何を仕出かすか分からん……!

まあ、同姓同名のもう一人の赤木しげるはどうでもいいがな……。


鷲巣は少年からデイパックと拳銃を奪い取る。
デイパックの中から出てきた紙を見て、鷲巣はある事を理解した。
少年のデイパックから出てきた紙、それはランダム支給品一覧表だった。
ところどころ少年の血で汚れて、読めなくなっている部分が多々あるが、これは大きなアドバンテージとなるだろう。

(なるほど……これは役に立つ……!そして、小僧の妙な博識ぶりの秘密はこれだったか……!)

妙に長々としていた説明台詞の秘密を理解しつつ、鷲巣はとりあえずその紙をデイパックの中に放り込んだ。

少年から奪い取った拳銃を合わせて、鷲巣の装備はさらに充実する。
恐ろしいまでの運である。しかし、鷲巣の豪運はここに留まらない。

少年の死体の陰に、何か光る物が落ちている。
鷲巣は疑問に思いつつ、それに手を伸ばす。

「あ……? あ〜〜〜〜〜〜〜〜?」

光る何か、それは……ドラゴンボールだった……!
どうやらこの建物に隠されていたらしいのだ。
あまりの好調ぶりに、鷲巣は思わず呆然とする。
しかし、次第に事態を飲み込み、自分は王なのだとますます強く自覚すると……


「カカカカカカカ……!ヒィヒィヒィヒィ……!」

大笑いする鷲巣。



もはやわしに敵はいない……!やはりわしは間違いなく王……帝王……!
あの悪魔……アカギとて今のわしにはひれ伏せざるを得ないだろう……!
ククク……カカカ……!全く、全く持ってわしを殺し合いに参加させるなど笑止千万……!
こんなもの、所謂『出来レース』だ……!主催者のガキめ……!待っていろ……!

真の王者とは誰の事か……教えてやる……!


鷲巣はどうどうと闊歩し、建物から出る。その顔は、自身に満ち溢れていた。

【説明好男(説明役の人)@斬 死亡】
【残り41人】


【B-4 市街地/一日目深夜】
【名前】鷲巣巌@アカギ
【状態】健康、ハイテンション
【装備】サブマシンガン(残弾数28/32)@現実、如意棒@ドラゴンボール、バトルジャケット@ドラゴンボール
【持ち物】ディパック(基本支給品一式×2、不明ランダム支給品0〜1)
     一星球@ドラゴンボール、ランダム支給品一覧表、拳銃(残弾数8/9)@現実
【思考】
1:ドラゴンボールを全て集めつつ優勝を目指す。
  その後、主催者と勝負し、格の違いを見せつける。
※ランダム支給品一覧表は赤木しげる(説明役の人)の血で汚れ、ところどころ読めなくなっています。



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