デイパックとの出会い
「どうしよう……困ったなあ……」
私は溜息を吐き、途方に暮れた。いきなり殺し合いなんて言われても意味が分からない。
なんだか夢のように思える。クリリンという人は死んでしまったけど、あれは本当に現実の事なのだろうか。
ここまで奇想天外な事態なんだから全部夢でもおかしくはない……
「って、普段からエージ君達と話してる私が言う事でもないか……でも、なあ」
私は幽霊が見えるから、その点では普通の人とは違う日常を過ごしている。
とはいえ簡単に殺し合いを受け入れられるほど荒んだ毎日は送っていない……と思う。
だって今だって夢みたいに感じてるもん。
名簿を見ると明神さんとガクリンがいた。私は大いに驚く。
不思議なもので、大切な人たちがこの酷過ぎるゲームに巻き込まれると知るや否や、なんだかとても怖くなってきてしまった。
ううん……これは大変な事になっちゃったなあ……
支給品は拡声器と何やら長すぎる説明書きが附属された刀。
私には、剣なんて扱えるわけないなあ……でも、拡声器は便利そうかな。
「とにかく二人を探さないと……」
拡声器を使えば沢山の人を集められると思う。
出来るだけ目立つ所で明神さんとガクリンに呼びかけるのが最も効率的な探し方だろう。
私は座り込み、地図を見て現在地を調べる。うーん、分かりにくい……。
地図ってなんか苦手なんだよね……うーん、私田舎で住んでたから地図なんて見る必要なかったし……
やっぱり都会って色んな意味で嫌だなあ。
ふと、私の目に何かが映った。『それ』は夜の暗闇の中、ゆらゆらと浮遊している。
「……え?」
浮遊している何かはデイパックだった。
えーと……意味が分からない。何だこの状況……。
私は幽霊が見えるから、もしかして、もしかしてえっと……
「えっと……カバンの幽霊……かな?」
私はデイパックに恐る恐る話しかけてみる。なんだか怖い。
あんまり呑気なものだからつい忘れそうになっちゃうけど、今って殺し合いの真っ最中なんだよねー……。
もしかしてこのカバンの幽霊は……
「違うよ」
「カバンが喋った!!」
「喋るよそりゃ」
え……えー……? 私の目が点みたいになって、頭の中が真っ白になっていく。
えっと……何なんだろ。何なんだろこの状況は……
私は冷や汗を流しながら、カバンさんにこっそりと話しかけてみる。
「えっと……カバンじゃなきゃ、貴方は何の幽霊なの?」
「幽霊じゃないぞ」
「ゆ、幽霊じゃないんだ……あはは」
だったらあんたは何者なんだ。カバンって私の知らない所で飛んだり喋ったりするものなのかな。
ああもう訳分かんなくなってきた……助けてー明神さん……。
「俺はれっきとした生きた人間だ」
「に、人間? カバンの形してるのに?」
「あんた……何か勘違いしてるね……」
カバンさんはそう言うと、地面にどさっと落ちた。
普通に、生きているとは思えないような、本当にただの『物』みたいな感じで地面に落ちてしまった。
あまりに痛そうだったので、私は思わず、ああ、と驚き、カバンさんに駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか? 今なんか普通に落ちちゃって痛かったんじゃ」
「いやいや落ちてないから大丈夫大丈夫」
「そんな……でも、なんかいかにも痛そうな感じに落ちて」
「だから大丈夫だって」
私はカバンさんを抱きかかえてみる。カバンさんは今の落下で少し傷が入っていた。
掠り傷に過ぎないので大事には至らないけど、なんか不安だ。
「ぎょ!?!?」
思わず変な声が出てしまった。何かがしゃがみ込んでいる私の肩をぽんぽんと叩いたからだ。
どうして、なんで?誰もいなかったはずだよね?もう怖いからやめてよぉ……
後方で何かが動く気配がする。私は身動き一つとれない。
ひひぃ……とかいう情けない声を出して震えてしまう。うー……情けない。
頑張れ姫乃。きっと、きっと後ろには悪戯してる明神さんが
「いい!?」
何かが私の手を取り、握り締めた。それと同時にカバンさんが持ち上がる。
私の全身に鳥肌が走る。もうなんか驚きすぎて逃げる事も出来ない。
「俺は殺したりなんかしない。握手、しようか。さああんたも握り返して」
「あ、あはははは」
「……ははは。あんたも様子を見る限り乗っていないみたいだな!」
もうこうなったらどうにでもなってしまえ!私は透明な何者かの手を握り返す。
何者かの手は、思っていたより全然暖かい。
「あ、あの……」
「ん? どうかしたか?」
「あなたは、何者ですか?カバンの精霊……みたいな感じ?」
「ははっ! 俺は透明人間だよ。スケさんって呼んでくれ。このデイパックは俺の支給品だよ」
と、透明人間!? カバンは関係なかったの??
あ、よくよく見てみれば、不自然に首輪が浮いてるし……
「ほ、ホニャラパパー……」
「ちょ、どうした!?」
混乱で訳分かんなくなり倒れそうになった私をスケさんが支えてくれた。
うーん……お母さん。やっぱり、この世界には私が思っている以上に不思議な事が多いみたいです。
▼ ▼ ▼
「なるほど。拡声器は使えそうだな」
「そ、そうだよね。私もそう思った。これ使ったらみんな集められるよ」
未だにスケさんには慣れていないので、私の声はどうも上ずってしまっている。
ごめんなさいスケさん……貴方に非はないよ。
「でも使い方を間違えば大変だなあ。殺し合いに乗っている人達まで引き寄せてしまう。
格好の的になってしまうな」
「そ、そんな人本当にいるのかな……殺し合いなんてそんな夢みたいな事……。
私もスケさんも乗ってないし、明神さん達も乗るとは思えな」
「……………」
「ひゃあ!!」
スケさんがいきなり私の肩を掴んだ。透明人間であるスケさんの動作は私には見えない。
だから本当に驚いてしまう。スケさんは真剣そうな雰囲気で語り出す。
「姫乃さん!主催者は本気だよ!本当の本当に殺し合いは行われるんだ!
もし見せしめで死んだのがさっきの禿げの人じゃなくて、姫乃さんの親しい人だったらと考えたら分かるだろ?
実際に殺し合いは始まっているんだよ!」
見せしめで死んだのがもし、明神さんやガクリンだったら……
私はこの時、初めて自分が放り込まれた状況を理解した。
急に何もかもが恐ろしくなり、私は震えた。
そうだ……分かっていた事だ。本当に本当に、殺し合いは行われるんだ……
明神さんやガクリンもいつ死ぬか分からない……それに私だっていつ死ぬか……
今までの私は、現実から目をそらしていたのだろう。スケさんの言葉で私は今どんな状況にあるか完全に理解できた。
なんか……急に怖くなってきちゃったな……はは……
スケさんは私の肩をしばらくの間掴んでいてくれた。
「大丈夫。俺達と同じような、殺し合いを嫌う仲間達を集めていけば、きっとなんとか……手はあるはずだ」
「分かった……分かったよスケさん」
私はスケさんの手を掴み、自分の肩から下ろした。
スケさんの顔のある辺りをきっ、と凝視する。
「いい顔になったね」
「明神さんやガクリ……ガクって言う人を見つけたいよ。スケさん」
「だったらこれだね」
スケさんは拡声器を手にとる。
「でも、それはやっぱり危ないんじゃ……ないかな」
「確かに危険だね。けれども危険を冒すだけのメリットだってきちんとある。
どうだ?姫乃さん。俺を見て何か思いつかないか?」
スケさんを見て何か思いつく事……。って見えないよスケさん。
あ。でも見えないって事は……!
「スケさんなら、拡声器を使っても……!」
「そうだね。俺なら殺人鬼を引き寄せてしまった時、逃げやすい。俺は透明だからな。
まあ、首輪がある限り、完全な『透明』ではないけど、余程冷静な奴でないと、俺の存在にはなかなか気づけないはずだ。
透明な事と拡声機、そして姫乃さんの協力があれば他にも色んな事が出来ると思うよ」
「でも……でもやっぱり危ないよスケさん!」
透明でも、やっぱりそれでもバレないわけではない。
折角友達になれたのに、スケさんに死なれては困る。
「大丈夫だって姫乃さん。俺、ただの透明人間じゃないから」
スケさんの首輪とデイパックが一気に持ち上がる。
スケさんは立ち上がったようだ。私も急いで立ち上がる。
「俺は闘っても凄いからね。それなりに」
そんな事言われても、やっぱり心配なのは変わらないよ。
私はスケさんのデイパックを持ってあげる事にした。彼の透明率を上げるためだ。
私にはこれくらいの事しか出来ないけど、何か役に立ちたい。
「有難う姫乃さん。いずれにしても、拡声器は慎重に使う事にしよう。
何重にも保険を張って、慎重に……。色んな拡声器の使い方を模索していこうか」
【C-8/一日目・深夜】
【名前】桶川姫乃@みえるひと
【状態】健康
【装備】拡声器@現実
【持ち物】研無刀@斬、ディパック(基本支給品一式)、
スケさんのデイパック(基本支給品一式、不明ランダム支給品1〜3)
【思考】
1:拡声器を使うに適した場所を探す
2:色んな拡声器の使い方を考える
3:明神やガクに会いたい
【名前】透明人間のスケさん@ドラゴンボール
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】なし
【思考】
1:拡声器を使うに適した場所を探す
2:色んな拡声器の使い方を考える
3:どうにかして殺し合いを破綻させたい
※首輪だけは透明ではないです。首輪だけが不自然に浮いてるような感じになってます。
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