命の交換
深夜の鬱蒼と茂った森。わずかな月明かりも背の高い木々に阻まれ、足元を見るのにも苦労する。
そんな場所に緑色の髪の少女ラーヤはいた。
ジャングルの村で育ち、友人とともに都会へ行く途中で遭難して無人島生活をしたりと、
送ってきた生活は決して常識的なものではなかったけれど、それでも彼女はただの小学生だった。
それも他と比べて格段におとなしく、無口で、ややともすると忘れられているような女の子。
そんな彼女がこんなゲームの参加者として選ばれたのは紛れもない不運である。
いきなり"殺し合い"をしろといわれて、それに反抗した背の低い男の人が殺された。
しかもあの場所にはどうみても龍としか思えない大きな生き物もいた。
怖かった。どうしてこんなことになったのか、全く理解できない。
悪夢なら早く覚めて欲しいと思う。だけど、首に触れる無機質な触感は、無視できないほどにリアルだった。
最後の一人になるまで殺し合うだなんて私にできるはずがない。
説明を受けたあの場所には他にも沢山の人がいたけれど、あの人たちも自分と同じく一人でいるのだろうか。
それとも早くも誰かと出会い、そして――不安が頭の中に湧いて出てくる。
できればみんなが殺し合いなんて馬鹿馬鹿しいと思ってくれればいい。
だがどうしても心にある不安は拭えない。
どこかに隠れないと誰かに見つかって殺されてしまうのではないだろうか。
早く隠れ場所を探してそこでじっとしていよう。
そうすればきっと大丈夫。いつも空気みたいだって言われてる私だもの。
絶対に見つからない、絶対に大丈夫、きっと大丈夫だから――。
そう自分に言い聞かせながら隠れる場所を探していたラーヤ。
その時、背後から彼女がもっとも恐れていた他の参加者の声が響いた。
■■■■■■
「おじょうちゃん。お待ちなさいよ」
声をかけてきたのは杖を突いた老人だった。
小柄な体は殺し合いなんて出来そうもなく、恵比寿のような笑顔の好々爺である。
「カカカッ。怖がっているんだね。無理もないよ、あんな変なやつにつれてこられてねぇ。
でももう大丈夫。わしと一緒に安全な場所へ行こうね。こんな小さな子供が1人でいるもんじゃないよ」
優しい、村のおじいちゃんを思い出させる声だった。
ラーヤの緊張しきってガチガチに強張っていた体が徐々に溶けていく。
「カッカッカ。ほら手をつないであげよう。暗いから足元には気をつけるんじゃよ」
殺し合いしろって言われて本当にやる人なんているわけない。あの心配は思い過ごしだったんだ。
ラーヤが老人に駆け寄った瞬間、――――ぱぁん、という破裂音が響いた。
■■■■■■
「カッカッカ!ついとる!わしはついとるぞぉ!」
あっけなく倒れて血を流す少女の前で老人が哄笑する。
「あの嘘喰いのやつめにやられたときはどうなることかと思ったが、天はわしを見捨てておらんかった!
ハッ!何と何と…お屋形様直々のご招待じゃ!
このゲームに勝ち残り最後の一人になれば、わしは屋形超えに挑戦できる!!
そうなれば賭朗の頂点に立つことも夢ではない!
国家レベルの権力と暴力を有する賭朗のな! カカカカカッ!」
少女に見せていた温厚そうな好々爺の顔が嘘のように凶悪な顔で
元賭朗会員にして、名高い九重ビルの主である九重太郎、通称Q太郎は笑い続ける。
「それにしても賭朗が集めるようなやつだから小さな子供に見えても油断ならないかと思ったが、
なんだただのガキじゃないか! こんなことならあっさり殺さず徐々に弱らせるんだったよ。
ああもったいないもったいない! きっといい悲痛の叫びをくれただろうに、カッ、カカッ、カカカカカ!」
こうしてジャングルからやってきた少女は、一言も話さないままこのゲームでの短い生涯を閉じた。
その命を無残に奪った快楽殺人者はこのゲームに参加しなかった場合、直後に殺されていた身である。
まるで命を交換したかのようなこの2人。生き残ったQ太郎は果たしてどのように殺し合いゲームで立ち回っていくのだろうか。
【ラーヤ@ハレグゥ 死亡】
【残り44人】
【F-6 鬱蒼と茂った森/一日目・深夜】
【名前】Q太郎(九重太郎)@嘘喰い
【状態】健康
【持ち物】ニューナンブ@現実(弾数4/5)、ディパック(基本支給品一式、不明ランダム支給品0〜2)、
ラーヤのデイパック(基本支給品一式、不明ランダム支給品1〜3)
【思考】
1:次の獲物を探しに行く。
2:最後の1人になって屋形超えをする。
3:嘘喰い(斑目獏)に復讐する。
*嘘喰い3巻第23話直後。廃ビル脱出勝負に負けすべてを失った後、鞍馬蘭子に殺される前からの参戦です。
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