OP
広間と呼べるものなのか、どうなのかも分からない空間。
その空間は今、静寂に包まれていた。
地面には複数の者達が只、眠り込んでいる。
見た目では分からないが、一人一人様々な可能性を持つ者たちである……やがて、その可能性の粒たちが一人、また一人と目を覚ます。
起きた粒たちは、それぞれ自分達の現状を理解できないのか、空間が闇に包まれている為なのか、全てを悟っているのか
ただ、黙るのみの者もいれば、騒ぐもの、仲間を探すものと様々だった。
そして、次々と粒たちが起き始めると共に空間が喧騒に包まれていく時、闇の中に一筋の光がある一点を照らした。
「おはよう、君達」
唯一、光が射しているその場所には、椅子に座る男が一人。
その男が発した一言であったが、この場にいる彼らは男の言葉の意味よりも、その姿自体に若干の疑問があった。
彼らの見える範囲では普通の男ではあるが……椅子が背中を向けている。
そして、男も背中を向けて喋っている。
この空間にいる、ほぼ全員がなんで逆向き?と思っているがそれを無視するかのように続ける。
「君達は何で、此処にいるか分かっていないと思うから僕が教えてあげよう」
男は、困惑や誰何の声の満ちる闇の中を切り裂くかのように、こう告げた。
「これから、君達には殺し合いをしてもらう」
言うと同時に、男は指を鳴らす。
すると男を先頭に、空間を囲むようにして彼らの周囲に光が射し、そこに黒服を着た男女が複数現れた。
「彼らは立会人だ、と言っても知らない者もいると思うから気にしなくていい、只のこのゲーム補佐係さ」
未だ、後ろ姿の男は彼らの動揺や激情を挟む間もなく得意気に言う。
「ふざけるッ!! 殺し合い? そんなことするわけないだろ!」
理解し難いこの流れに、一番に追いついた坊主頭の男が、その感情を露わに叫ぶ。
「そうだよね、普通はしないよね、賭朗会員ならまだしも君達は正義の味方だったり普通の学生だったりするからね」
「当たり前だッ! ゴクウッ! いるんだろ? 相手は普通の人間みたいだ悪いけど俺が倒すぞ」
「待てッ!クリリン」
ゴクウの静止も聞かずにクリリンは光の射す男の下へとたどり着く。
「そうか、クリリンくんか……ちょうど良かった、君は名簿にいないから予定通りだ」
「えッ?」
「そこからだったら見えるよね? クリリンくん」
「うッ……あれは……」
クリリンが見た物は、自分達が過去数回に渡り世話になった神……そう、ドラゴンボールから召還されたシェンロンの姿だった。
「ではシェンロン、予定通り頼むよ」
「……了解した」
その了解という言葉と共に、クリリンに付属している首輪から奇妙な音が流れる。
[……警告します。警告します。あと10秒でこの首輪は爆発します]
「な、なんだって! おい、これはどういうことだ!」
「ああ、聞いたとおりだよ、君の首に付いているものが10秒後に爆発する」
「ば、爆発って体を鍛えている俺には効かない…ぞ……」
「……果たしてそうかな? シェンロンの力を借りて、君達でも死ねるようにできてると言っても?」
「そんなの、う…うそだろ……」
「僕は嘘をつかない」
「そ、そんな……」
[……警告します。警告します。あと2秒でこの首輪は爆発します]
「ゴ、ゴクウゥゥゥゥゥ!!!!」
――――ボン
本当に小さな音で弾けた首輪とクリリンの頭だったものが転がり、黒と赤の混じった液体が地面を流れる。
「クリリィィィンッ!!!!」
「そう熱くならないでほしいな、ゴクウくん その熱気はゲーム開始してから存分に発揮してくれればいいよ
まぁ、どうせ今は動けないと思うけどね」
「このクソヤロウッ!」
男の言うとおり、クリリン以外の者達は謎の力により動けないでいた。
「恒例のみせしめタイムも終わったし、そろそろ、ゲームの説明に入ろうかな
簡潔に説明すると、この後、移されるフィールドで最後の一人になるまで殺し合ってもらう
反則は一切ない……あッ……力を持たないものも落ち込まなくていい
その辺も考慮して僕は支給品と首輪にも、かなり手を加えている
首輪については喋れないが、支給品はかなり特殊なものを沢山用意してある
それらを駆使すれば、誰もが最後の一人になることができるはずだ
あと、6時間毎に放送をするが、その時に死亡者の名前と禁止エリアを読み上げる
禁止エリアに侵入すると、10秒の警告の後、首輪が起爆するからクリリンくんみたいになりたくなかったら気をつけた方がいいよ」
話している間もゴクウの叫びが聞こえるが、それを無視するのが当たり前かのように男は続ける。
「そうそう、それと重大なことを忘れていた
最後の一人になったプレイヤーには僕が叶えれる望みなら、全て叶えよう
ただし、僕が叶えれない望み又は叶えたくない望みの場合にはシェンロンに叶えてもらう
シェンロンには、ドラゴンボールと呼ばれる玉を七つ集めたものの願いを何でも叶える力がある
本来三回叶えれるが、そのうち二回は既に僕が使っているから、残り一回をあげよう
信じないかも知れないが、僕が今回このゲームを開催できたのも彼のおかげだと言えば分かるだろうか
とにかく、そのドラゴンボールを六つ、支給品として混ぜたり、会場に撒いたりした。
そして、最後の一つは僕の手の中にある……ここまで来たら僕の言いたいことが分かるかな?
僕を倒したいもの、僕には叶えれそうにない願いを叶えたいものは、会場のドラゴンボールを集めて勝ちあがるしかない
そして、僕とドラゴンボールを賭けて勝負をしようじゃないか、その内容は知力、つまりギャンブルで挑戦しても構わない
暴力、つまり戦闘行為で挑戦しても構わない……どちらにせよ、お相手しよう
勝って勝って勝ちまくる、永遠に勝ち続ける運命にある僕でもこのゲームの勝者とならいい勝負ができるかも知れない」
男の勢いに乗って、地面が揺れるほどの錯覚に陥る。
しかし、その中、思考を張り巡らしている男が数人いた。
そのうちの一人は思う。
(なるほど、このゲーム自体は賭朗が仕切り、その後はシェンロンと呼ばれるものが仕切る屋形超えと同じ要領なわけか……
まっ、今回のそれは屋形超えまでの道のりと屋形超えをした時の報酬がバリ高だけどね)
「途中、少し脱線したが、一応説明は終わりだ
細かいルールなどは支給品に詳しく書いてある……それでは僕を楽しませておくれ」
そう言い、再び指を鳴らすと、その空間にいた首輪を付けていた者達が一斉に消える。
残ったものは、数人の立会人とシェンロンと背中を向けた男……いや、シェンロンから見れば正面に座る男のみ
「……よかったのか? 倶楽部「賭郎」21代目お屋形様 切間創一」
低い声を響かせる神の龍、シェンロン
「……何が?」
「最後の報酬だ、お前が負けたら殺されるかも知れんぞ?」
「……いいさ、僕は勝つ運命だ、負けるはずがない……それに僕の本当の願い
それは、参加者側に回ることだったのは君の知るところだろ?」
「……そうだったな、最後一つの願い……この私に七つのドラゴンボールを持ってきた者に託そう」
「僕は負けないけど、楽しめる……それでいい」
―――――あれは、少し前のこと
奇妙なボールと、それにまつわる伝記を発見した。
それを部下から聞いたときには半信半疑だった。しかし、同時に興味も沸いた。
僕はそれとなく、部下に暇なときでいいから残りのボールも集めてみてと頼んでおいた。
僕の部下は僕が思うよりもずっと優秀だったらしい、いや、僕の天命のおかげかも知れない。
それは直ぐに集まった。早速、伝記通りに言ってみた。
「いでよッ! シェンロンッ!!」
空は夜のように暗くなり、七つのボールからは雲へと光が昇る。
そしてみた、伝記の記述通りの龍の神の姿を……
しかし、此処で僕は何かを見落としていたことに気づく。
そう、願い……願いを全く考えていなかったのだ。
「さあ、願いを言え、どんな願いでも三つまで叶えてやろう」
本当に現れると信じていなかった為、全く考えていなかった。
というよりも、今叶えてほしい望みなど僕にはなかった。
地位、権力、富、名声……全て持っている。
全てに勝つ運命にある僕には、全てがある。
その思いからどうでもいい望みとして、ちょうど少し前に空きの出来た拾號立会人をくれと言おうとした。
「拾號立会人に相応しい人物をく……いや、ちょっと待て!」
その時、頭を過ぎったのは、昨日たまたま読んだ小説、バトルロワイアル
どうせなら、それで次の立会人を決めよう……やるなら派手な方がいい……?…それでも違和感がある
違う……何かが違う……そうだ、僕は全てを持っていると思っていたが、どうやら違うようだ
地位、権力、富、名声、この次に来るものを僕は無意識のうちに欲していた。
それは……刺激
そう、刺激がほしい、どうせ勝つ運命にある僕だ。勝つのは分かっている、だがそれでも刺激だけなら楽しめるはずだ。
……バトルロワイアル、これしかない。
そう思うと僕は紙いっぱいに必要な事柄、全てを書き写していた。
ゲームのプレイヤーは折角、シェンロンに頼むわけだ。自分の力のみでは不可能なメンツがいい。
それこそ、多次元世界……つまり、今のこの世界の住人以外のメンツもほしい。
天才、超能力者、超人、宇宙人、正義の味方など、様々な人物や僕の知るメンツを入れても楽しい。
ただ、能力に差がありすぎても駄目だ。一定以上の能力は制限してもらわないと一瞬でゲームは終わる。
ほかにも、首輪や支給品などアイデアは止まらない。小説バトルロワイアルを参考にドンドンと紙に詳細を書き写していく。
その手は書きあがるまで、一切止まることはなかった。
「……できた、シェンロン、この紙に書かれているゲームを開催してくれ」
「……よかろう、ところで主催者と参加者は抽象的なことしか書かれていないが?」
「そこは、神であるシェンロン……君に任す」
「そうか……少し待て」
少し待てと言われたが、このときは深夜だったと言うのに朝方まで待たされた記憶がある。
「……完了した」
「?」
「悪いが、お前は選ばれなかった」
「選ばれなかった?」
「ああ、具体的に参加者を決めなかったお前が悪い……だが企画者はお前だ、つまりお前が主催役をするのだ」
「……そうか、残念だ」
「そうでもなかろう、お前の所望する刺激とやらは主催側の方が楽しめるかも知れんぞ?」
「……そうか、神である君がいうのであれば信じれるな」
あの出来事は数日前、こちらの準備があるということで数日待ってもらったわけだが
その間にもシェンロンと打ち合わせを色々とした。名簿とキャラクタープロフィールを見せてもらったときには鳥肌がたった。
最初は主催よりも参加者側がよかったが、シェンロンの言ったとおり主催も楽しめる。
おかげでとても楽しいギャンブルになりそうだ。
「さて、最初の死者は誰になるかな?」
そして、未だ椅子に座ったままに僕は複数のモニタの電源を入れた。
【クリリン@ドラゴンボール 死亡】
前話
目次
次話