それぞれの本能






「よう、お前はドラゴンボールを持っているか?」
「持っていないが」

二つの低い声が、月に照らされた道路に響いている。

「そうか、じゃあベジータって奴を見なかったか?」
「見ていない」

片方の男は坊主頭に巨漢、声の通りの男
パンツ一枚に上は奇抜なファッションをしていた。

「ほう、そうか」
「次はこちらから質問をして構わないか?」
「ああ、いいぜ」

もう一人の男は坊主頭ほどの巨漢ではないが、それなりの長身、そして凛々しく整った顔でスーツを着込んでいる。
しかし、その顔はどこか無機質なもの

「お前は人間ではないな」
「人間? この星の生物のことか?」
「この星の生物? そうだな、そう……この星に住む人間ではないな」
「ああ、その通り、俺はサイヤ人……惑星ベジータの種族だ」
「そうか、だからか……」
「だから?」

スーツを身に纏っている男、後藤はもう一人の男ナッパの答えを受けて一人、納得していた。
後藤は見た目こそ普通の人間であるが、寄生虫、世間ではパラサイトと呼ばれる存在である。
その彼ら、パラサイトは寄生した生物の種族を捕食することが基本
つまり、人間……地球人に寄生しているパラサイトは地球人を主食とする。
地球人に寄生している後藤は、宇宙人であるナッパを捕食するつもりは一切ない
それは後藤のパラサイトとしての本能が告げているものだった。

「気にしなくていい、それでは失礼する」
「オイオイ、待てよ今この島で起こってることが理解できてないのか?」
「……理解? この私は貴様以上に理解しているつもりだが?」
「ほう……じゃあこういう事態も理解しているの……かッッ!!」

声と同時にナッパの掌から凄まじいエネルギーの塊が放出される。
その塊は、当然もう一人の男、後藤の元へと向かう。
周りの空気全てが弾けるように地面が爆ぜる。

「ハッハッハ、跡形もないか」

目の前の巻き起こる砂煙が晴れる前にも確信する勝利
しかし、ナッパの予想は覆る

「跡形もないとは、何のことだ?」


その声が聞こえる方向はナッパからみて真横
そこには、スーツに焦げ目一つ付いていない後藤が二の足で地面を捉えていた。

「なに!? 普通の人間が避けれるものじゃないぞ!」

ナッパが驚くのも当然、制限が掛かっているとはいえ
彼の攻撃は簡単に避けられるスピードではない。

「この場所が殺し合いを強要しているとしても、私にはお前達のような『人間』でないものを捕食する気はない
 だが、お前がこの私に対して殺意を抱くのならば事情が変わってくるのだが?」
「へっ、お前がどうであろうが俺がお前を逃がす理由はない!」
「そうか……仕方ない、それならば、私も自分の身を守る為にお前を排除させてもらう」

二人の見た目は人間……だが、その実態は宇宙人と寄生虫
今、『人間』ではない二人の戦いが始まる……



  ※   ※   ※    ※   ※   ※  


空はこの島の狂気を示すように闇の中
唯一、この場所を照らすものは月ただ一つ
二人の戦いは誰にも邪魔されることなく、雷鳴のごとく繰り広げられていた。

「おいおい、地球人でこんな奴がいたのか? 体をあそこまで自由自在に伸縮させるなんてナメック星人並みだぞ」

ナッパは何度目かわからない驚きを感じていた、目の前の生物は動きのスピード、精密さからみて異常だが
動きそのものよりも、体の変形を利用した変則的な攻撃と防御がナッパとの基本的身体能力の差を埋めている。
サイヤ人は戦闘民族、本来なら即座に勝敗が分かれる勝負であったかも知れないが
その変則的な動きと能力制限が二人の勝負を均衡とさせていた。
だが、ナッパは気にしない、全力で挑めば、この勝負は直ぐに終わると思っているから
自分の種族、肉体を信じきっている彼には油断と怠慢が充満していた。



「仕方ない……フルパワーだッ!!!」

目に見えて、ナッパの気の流れが増大していく
大地は振るえ、草木はざわつく
そのざわつきが収まると今度は周囲の空気が止まる。

そして、次の瞬間、ナッパの拳が後藤の目前と迫っていた。
間一髪で避けるも、二発目、三発目と拳と蹴の連撃が後藤を襲う。
明らかに先ほどとは違う、一拳一足、一撃でも喰らえばその箇所が確実に破壊されると予想される。
後藤は攻撃もできずに回避に専念せざるおえない状況に追い込まれていた。
……しかし、後藤の顔は歪まない。

「ハッハッハー! どうだ、俺が本気を出せばお前なんかこんなもんなんだよぉ!!
 俺を一度殺したベジータ、そしてカカロット……あの二人と島中の生物は全殺しだッ!!!」

そう、ナッパは復讐を果たそうとしていた。力が全く及ばなかった二人、カカロットとベジータ
この二人に復讐するのは簡単でないと、ナッパ自身も分かっている。
だが、復讐を果たさないと気がすまない。ベジータと組んでもいいが、この舞台では一人しか勝利者はいない。
最後の二人になっても、前のように殺されるのは分かっている。
それは許せない! 戦闘民族サイヤ人が実力の差があるとはいえ、簡単に敗北を認めるわけがない。
後藤に勝負を挑んだのも、あの二人に勝つためだ。今の自分では実力不足……なら戦闘を重ねるしかない。
主催者である、桐間は誰でも優勝できるような支給品を配ってあると言っていたが
実際、ナッパに支給されたものは、とてもそれだけではカカロット、ベジータを倒せるものではない。
更にいうと、ナッパにとって、戦略や道具で倒しても気がすまない、それほどまでの屈辱を二人に味合わされている。
戦闘を重ねる……その一点のみに重点を置き、ナッパはこの島を駆け巡っていた。
そこで出会ったのは、後藤であった。
最初はただのゴミかと思ったが、今となっては全力で相手をしないと倒される相手だと理解している。
そして、感謝もしている。ナッパの一番出会いたかった理想像そのもの。
弱すぎず強すぎず、全力を出せなければ倒せないが、全力を出せば倒せる相手……一人目で理想像を引き当てた。
自然と笑みがこぼれながらも、ナッパのラッシュは続く。

「ホラホラッ! お前の本気はそんなもんか!!」
「……仕方ない」

今まで、口を開かずに相手をしていた後藤であったが、その呟きを残し
地上での殴りあいから間を置き、後方の空へと跳躍する。



「空も飛べない下等生物がッッ! 空中へ逃げてどうする!」

勝利を確信しているナッパは、そのまま舞空術で追おうとするが……
後藤の様子がおかしい、最初は逃亡の為に飛んだと思ったが、それなら最初から背を向けているはず。
しかし、後藤の目はナッパから一度も逸れていない。……そして、ナッパは自分の目を疑う。
空中へ飛んだ後藤の手元、デイバックから、見たこともない物体が出現したのである。

それは、暗闇の中でさえ、更に黒く輝くボディに究極のパワーが搭載された四輪マシン
GT-R以外の系列としては最後の5ナンバースカイライン

―――――BNR32 スカイラインGT-R V-specII

「な、なんだそりゃ!!!!」

ナッパが驚くのも無理はない、後藤が出したそれはナッパにとって身近でないものであり
得体の知れないもの、そんなものが空中から自分目掛けて突然現れたのである。
闇の中、ライトの光がナッパに肉体に死の宣告を告げる。

「ウォォォォォォ!!!!!! そんなもんぶっ壊してやる!!」

相手が何を所持していようが問題ない、支給品を使ってくることもこの島では当然ある。
それさえも突き破るのがサイヤ人、ナッパは己の体、能力のみでGT-Rを破壊しにかかる。

「こんなもの、アウトオブ眼中ッッッ!!!」

GT-Rを破壊する為に無数のエネルギー波を打ち込む。
しかし、GT-Rの外見は砕けても重量と勢いはたいして変わらない。
その重量全てが地球の引力に引っ張られ、ナッパに向かう。

「まだまだッ!!」

目前にまで迫ったGT-Rを全ての気を使い、体で受け止める……いや、受け止めているとはいえない。
拳の連打で自分自身への落下を遮っていく。

「サイヤ人を舐めるなぁあああ!!」

一秒、二秒とGT-Rの落下が空中で止まる。
普段ならば一撃の元で弾き飛ばせる物体……ナッパはこの島にきて初めて制限の強さに気づく。
気を全開にして、破壊に掛かっているというのに全く歯ごたえがない……このままではヤられる
……だが、プライドが全てを凌駕する。



「おおおおおおおおおお!!!!!!!」

ナッパの拳一つ一つがGT-Rを破壊していく。
フロントガラス、タイヤ、ナンバープレートなどが次々に吹き飛び、地面に転がっていき
板金八万コースではすまないほどの衝撃を加え続ける、車内ではエアバックも作動している。
そして、ナッパの全てを乗せた攻撃の前にスカイラインという芸術が崩れ落ちる。

「ハッハー、乗り越えたぜ! あとはお前を始末して……や……なん…だと…!?」

全身全霊でBNR32 スカイラインGT-R V-specII を破壊しきったナッパ
そのナッパが目撃したもの……それは、白と黒が渋い味を滲み出しながら
コーナーではなく自分自身にドリフトをかましにくる鉄の塊

――――AE86 スプリンタートレノ GT-APEX(通称 ハチロク)

脅威の車連投、ニ連撃ッッッ!!
こればかりはナッパにも予想が付かなかった。
それも当然、ナッパでなくとも車が二台も自分に向かってドリフトしにくるなんて誰も想像つかないだろう
一台目のスカイライン破壊で気のほとんどを使っているナッパは焦りに焦っていく
GT-Rを破壊している最中に後藤が攻撃してこなかったことから、逃亡したものだと思っていたが違っていた。
後藤は確かにこの場から逃亡をしているが、その理由はナッパを脅威と感じたからではない。
ほぼ確実に始末できたと理解したからである。

「クッソォォォォ!!! こんなところで死んでたまるかァァ!!!」

だが残念、気を消費しきっているナッパではハチロクを抑えることはできなかった。
ハチロクのボディは無情にもナッパの体に突き刺さり、ナッパを下に着地し華麗にドリフトを決めた。
普段ではなんともない衝撃、威力であるが、この島では即死に当たるダメージである。
……復讐を果たせず無念のまま、ナッパの息は静かに事切れようとしていた





  そして、そのナッパから遠ざかる後藤はナッパのその後についての興味は一切なかった。
あの場で戦闘行為を引き続いて行っても、勝機は十分にあったと後藤は理解している。
しかし、種族としての本能なのか、『人間』以外のものに対しての殺意自体が薄い。
防衛の為には戦うが、それ以上のことにはさほど興味もない
後藤らパラサイトは生まれたときに一つの本能が刻まれている。
それは「この種を食い殺せ」……この一点
それを元にして、それぞれのパラサイトは環境や生い立ちにより個性を発揮し、自分達の生まれてきた理由を探そうとする
あるものはそれを見つけ死に絶え、あるものは探す気もなく只、本能に生きる。
また、完全に人間社会に溶け込み、人と同じ食事で済ます者もいる
……中には、脳を奪えずに寄生元の生物と共に生きる道を選ぶ者も
そう、彼らパラサイトも精神の進化を遂げるのである。
その中で、後藤は自衛隊の一部隊を単身で壊滅状態に追いやり
その体験によって「戦いこそが自分の存在意義である」と自覚するようになるのだが、今の後藤はその体験をする前の後藤
ナッパとの戦闘では何故か後藤を刺激するものと至らなかった。
それもそのはず、今の彼にとっては戦闘行為よりも優先するものがあったのだ。
……それは空腹、ナッパを食す気はない、そんな獲物に構っている時間も労力ももったいない
空腹を満たす為には『人間』を探すしかない。
支給品として、パンが渡されているが、これでは本能としての食欲を満たせない。
戦闘を自分の存在意義と感じていない以上、より深い本能……食欲を満たすほうが先なのだ。
後藤は探す……自分の本能を満たしてくれる『人間』を……そして、自分の生まれてきた目的を……


【E-5 /一日目 深夜】

【名前】後藤@寄生獣
【状態】健康  空腹
【持ち物】ディパック(基本支給品一式 不明支給品1)
【思考】
 1:『人間』を探す
 2:襲ってくる相手には容赦しない
 3:自分の生まれてきた目的とは

*原作9巻市役所戦以前からの参戦


「うううぅぅぅ」

瀕死のナッパは最後の力を振り絞り、デイバックに手を伸ばしていた。
そして、その中から出てきたものは、小指サイズの小さな豆
その豆を勢いよく自分の口へと放り込む、するとみるみるうちに気が回復し、心臓まで達していた傷も癒えていく。

「クソッ!!」

自分の体に突き刺さっているハチロクを跳ね除けて怒りに震える。
支給品の一部として支給された小さな豆……仙豆
これがなかったら間違いなくナッパは死亡していた。
だが、そのことに大して苛立ちが止まらない。

「クソッ! クソッ! クソッ! こんなんじゃベジータにもカカロットにも勝てやしねえ」

仙豆は一粒しかなかった、当然ナッパはベジータかカカロットと遭遇したときに使う予定であった。
それを一戦目、こんな早期に使わされるとは……しかも相手はサイヤ人以外の種族
傍に崩れ落ちている二台の名車が笑っているように感じる。
だが、その二台を見つめ、自分の甘さにも気づいていく。

「勝利こそが絶対……か……」

先ほど、戦った相手後藤、そして、ベジータとカカロットに勝つ為には自分の肉体強化も大事だが
勝たなければ意味がない、勝つためには何でも……それこそわざわざ用意されている支給品を使わないなどという行為は
プライドの問題ではなく、単純に自分が甘いだけ。

――ベジータとカカロットには必ず勝たないといけないわけだ
――その為には自分自身の肉体を強化する必要と手段を選ばない貪欲さがいるわけだ
――となると次の行動は自ずと決まるわけだ

そう自分に言い聞かせると、ナッパの方針は即座に固まった。
相手がどれだけ弱かろうが、支給品の中に使えるものがあるかも知れない。
ならば、殺戮を繰り返し支給品を集める。
ドラゴンボールは後でいい、どうせ所持している中にはベジータの野郎が紛れているはずだ。
今、奴と会っても勝ち目は一切ない。

「俺こそが……俺こそが最強になるんだ……」

ナッパは自分では気づかない、一度、死に足を伸ばし、復活する……その行為が自分の実力を底上げしていることに
倒すべき相手、ベジータとカカロットとの実力差を縮めたこと、場合によっては超えていることに
戦闘種族としての血が、体中を……島中を今、駆け巡る。


【E-6 /一日目 深夜】

【名前】ナッパ@ドラゴンボール
【状態】健康
【持ち物】ディパック(基本支給品一式、不明支給品2)
【思考】
 1:支給品を集めながら、自分の戦闘能力向上を図る
 2:最終的にはベジータ、カカロット、後藤の抹殺

*死亡後からの参戦



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