強者達






「おかしいな。私は魔神邸に招待されたはずなのだが……」
 会場の奥では身の毛もよだつような魔物が下品な笑い声を浮かべている。
 殺し合え、と叫んでいるがそれより
「……」
 知り合いはいないのか、と会場を見渡す。
 今すぐにでもあの化け物達へ向かっていきたい気分だが、熱くなっては周りを見渡せない。

 第一にどうやって自分達をここに連れてこられたのか。
 第二にこの首輪は一体何なのだ?

 だが、その第二の疑問は直ぐに解けることになる。

 少しすると彼の強敵と書いて『とも』と呼ぶ男の弟の姿を遠くに見つけることができた。
「あちらは私に気付いていないようだな」
 前の方へ出た彼から今にも飛び掛りそうな怒気が感じ取れる。
 恐らく怒りで辺りを見渡せてないのだろう。その辺りがまだまだ兄と比べて若い。
 だが、それも一人の少女の死によって思いとどませられる。
 彼から感じる怒気はより膨れ上がったが、勇一の足は止まった。
 それと同時にもう一つ、会場内に強敵の気が沸き立ったのを感じる。
 何処に潜んでいるかは、姿が見えず確認できなかったが、確かに知った彼の気を感じていた。
 少女の死で同じように怒りを顕にする勇一の気を。
 また同じように怒りを顕にする自分もそこにいた。


「やれやれ、出会う暇もなかったな」
 ゲームの説明が終わった後、あの兄弟と接触したかったが、有無を言わさず飛ばされてしまった。
 気づけばこの地にいた。
 おかげで勇一の姿を探すことすらままならなかった。
 だが、支給された袋の中には、自分と勇二の名前もはっきり書かれている名簿の存在がある。
 これなら、名前から自分がいるのは二人に確実に伝わる。
 しかし、名簿を見渡しても勇一の名前は見つからないのが不思議だった。
「確かに彼の気を感じたのだが……」
 死力を尽くし闘った宿敵の気を勘違いするはずがない。
 きっとこの中にいるはず。と信じる。

「出会えるといいのだが」
 こんな虫唾の走るゲームに乗る気などしない。
 凶悪な化け物達だったが、自分と『とも』の力を合わせれば倒す事も決して不可能ではないはず。
 とっとと奴らを倒し、残された雪の元に戻らなくては。
「しかし、首輪が厄介だな……」
 先程の語りは、首輪を外した場合の仮定だ。
 何をするにしてもコレが外されなくては事は起こせない。

「―――誰だ?」

 突如、羅喉は声を出す。
 背中から語るように自分の後ろへ向かってと。

「良く気づいた……」
 背にした建物の影から獰猛な獣のような声が返ってきた。
 否、その姿は獲物に飢えた獣そのもの。
 沸き立つ彼の闘気は、一点に自分へと向けられている。
「さぁ、気づいたのなら俺と戦ってもらうぞ」
 獣が構える。
「―――戦う気はないといったら?」
「クックック。だが貴様の身体は正直だ」
 身体は自然と構えをとっていた。
 目の前の強者に対して、武闘家の血が騒ぐ。
「俺はゲームに乗る気はない」
「それがどうして私と戦いを?」
 二人はじりじりと足を地面に摺り寄せる。
「知れたこと! 俺の生き甲斐は強者と戦うこと!
 貴様と同類だ!」
 
―――貴様と同類だ!

 その言葉を出されて羅喉の身体は熱くなる。
 獣の嗅覚は、己と同じ種の匂いを嗅ぎ分けたのだ。
 格闘家の血が叫び、身体を支配する。

―――闘いたい―――

 強き者と死力を尽くして闘う事こそ彼らの生き様。
 目の前からヒシヒシと感じれる強き獣の気。
 今まで考えていた事よりもこの異形の者と闘いたいという欲求がふつふつと湧き上がる。

「悪い癖だな……」
 鳴り上がる鼓動を抑えきれない。
「私は悪い兄のようだ」
 
「俺は、こんな下らないゲームになど興味はない。
 だが、この強者溢れる状況は俺にとって最高のもの!
 いずれはあのケイブリスとも闘う事こそ我が望み!」

 それは獣の誘惑。
 羅喉の血をより滾らせる囁き。
 なるほど、ゲームに乗る気はしない。
 しかし、格闘家として強者と戦うという絶好の舞台である事実にも気づく。
「ふっ……いいだろう」
 羅喉がニヤリと笑う。
 それを見た獣の口も大きくニヤリと開いた。
「貴様との勝負受けよう」
 ケイブリスと闘うのが望みという事は、今は強者を狙っていても、やがてはこの男は力無き者も手にかけて辿りつく気だろう。
 ならば、それを見過ごすわけにもいかない。

 だけれども
 それよりも何よりも

 しばし、元いた世界では味わえぬこの至高の戦いを楽しみたかった。
 
「我が名はイガロ! 勝負!」
「閃真流神応派、鴉丸羅喉!! 参る!!」

 二人の足が地を蹴った。

【一日目朝、ラング・バウ都市内】
【鴉丸羅喉: 状態:良好 アイテム:不明】
【イガロ: 状態:良好 アイテム:不明】



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