Thinking Spider






掴み取れなかった…。
初音はまさに無念の表情で右手をわなわなと振るわせる
その手にはまだ最愛の少女のぬくもりが残っていた。

あの茶番に満ちた開会式が終わり、リュックをそれぞれ手にする参加者たち。
あるものは無感動に、あるものは泣きながら、そしてあるものは堂々と胸を張っている。
初音はそんな中でも奏子の手を決して離さずに握っていた。
繋いだ手から震えが伝わってくる。
「安心なさいな、私がいる限りお前には指一本触れさせはしないから」
初音は奏子に優しく言い聞かせる。

そして眼鏡の少年が機械を操作した瞬間、不意に周囲の光景が暗転し。
全ての参加者たちが一瞬のうちに闇に飲み込まれていく、
それでも初音は奏子の手を、彼女が今やただ1人心から愛する少女の手を決して離すまいと力を込める、
しかし。
「かなこ!」
闇の中、奏子の身体に巨大な白蛇が絡みつきその動きを封じていた。
もはや初音にはなす術もない。
それでも初音は握った手を離そうとはしなかった、しかし
奏子の唇がかすかに動いた。
(何?…かなこ一体今何を言ったの?)
反論する時間すらなかった。
2人の手は引き離され、そのまま彼女らは他の参加者と同じく闇に飲み込まれていった。
時間にしてわずか一瞬だったが、初音にはそれが永遠の別離のように感じられた。
そして、雪の舞い散る巨大な建造物の頂上で初音は決意を固めた。
「かなこ…私が迎えに行くまで生きているのよ」
そしてこんなふざけたところから早く逃げ出そう、方法はあるはずだ…きっと。
そのために何をすればいいのかを考えなければ、ここで焦れば思う壺。
それこそ奴らの手に踊らされたも同然だ。
確かに戦うのは簡単だが、
(かなこが悲しむようなことはもうしたくないわ…やっぱり)

初音はまずは斥侯として子蜘蛛を何匹か放つ、それほど遠くまでは無理だろうが
それでも彼らは自分の目となり耳となって情報を集めてきてくれるはずだ。
そして彼女自身ははやる気持ちを抑えながら、まずはじっくり考えることにした。
「それにしても持たされた得物がこれとは皮肉ね」
初音は手にした長物を忌々しげに振り回す、シャランと綺麗な音が鳴るのだが
それが余計に腹立たしく思えてくる。
「まぁ…いいわ…銀、今はお前に構っている場合ではないのよ、かなこを見つけて
それで気が向いたらあの時の続きをやりましょう」

【1日目朝、巨大戦艦頂上】
【比良坂初音: 状態:良好 アイテム:錫杖】
(蜘蛛に周囲を探索させています)



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