ママトト






ママトトの軍師ナナスが降り立ったのは、見渡す限り一面の砂が広がる砂漠の中心であった。
幸い、程なくオアシスを発見しナナスはすぐに身を落ち着けた。
ナナスはまず、オアシス『シャングリラ』の散策を始めた。
多少の魔法は使えるものの、彼の本分は軍師であり戦闘員ではない。
もし敵が潜んでいたのならば、自分はいとも簡単に殺されてしまうことだろう。
再度の幸い、ナナスは一通りシャングリラを見回ったが、どうやら今のところこのオアシスには自分以外の誰もいないようだ。
一つ大きく息を吐き、ナナスはその場に腰を下ろし支給品の確認を始めた。

自分に支給されたアイテムはボタン。
何の変哲もない服のボタンに見えるが、不思議な暖かさのようなものを感じる。
どのような効果があるかはわからないが、とりあえず身につけておくことにした。
続いてナナスは名簿を取り出し、参加者の名を見つめ頭に叩き込む。
そして、その中に二つの知った名を見つける。

―リック。
彼ならばこんな殺し合いなどには乗らないだろうし、何より信頼できる。
それに、彼よりも腕の立つ剣士を自分は知らない。
合流できればこれほど心強い者もいないだろう。

―――カカロ。
何故父上はあんなことをしたのだろう。
何故自分を息子として育てたのか。
本当にただ戦争の道具としてしか見ていなかったのだろうか。
本当にいつも僕らに見せていた顔は嘘だったのだろうか。
聞きたい事が沢山あった。

「…………」
ジッとしていても始まらない。
危険かもしれないが、人を探すのならば歩き回るしかないだろう。
そう思い至り、ナナスは荷物を背負うと砂漠に向かい歩を進めた。
遠く霞む山を横目に、赤い騎士は進む。
「…まったく。おかしなことに巻き込まれちまったな…」
大きく溜息をつき、一人悪態をたれる。
リックは歩を進めながら、幾度か開いた名簿に目を落とす。
そしてその目は、毎回同じ名の上で止まる。
「大将は喧嘩弱いからな…。とっとと探し出さないと」
軽口を叩きながらも、その足取りは焦るように速い。
実際、その軽口は外れてはいないのだから。
ナナスは軍師としては右に出るもののいないほどの天才だが。
その戦闘能力は低い、早く探さないと不味いだろう。

そして、リックの頭を占める不安はナナスの安否だけではなかった。
――カカロ王。
確かにあの時、自分が止めを刺したはずだ。
生きているはずはないのだが。
同名の別人だろうか?
しかしカカロなどという名はそうはない。
果たしてこのカカロとは、あのカカロ王なのだろうか?
仮にカカロ王として、このゲームでなにを成そうとしているのか?
このゲームに乗って、殺人を犯すか?
リックも戦乱の国に使える騎士だ、戦場で人を殺したこともある。
だがこれは違う、この舞台はまったくの別物だ。
もし、このゲームにカカロ王がのっていたらどうする?
殺すのか?
また、殺すのか?
様々な思いが脳裏を掠める。
幼き日、ママトトにつれてこられたリックは、厳しくも優しくカカロに鍛えられ、育て上げられた。
その姿は偽りの演技だったのかもしれない。
唯の手駒の育成だったのかもしれない。
それでも確かに、その時の彼はリックの父親だったのだろう。
様々な不安がリックを過ぎり、その歩を早める。

いや、リックよ、なにを迷うか。
この身はママトトに捧げているのではない、ましてやカカロ王にでもない。
この身はナナスに捧げ、仕えているのだ。そう決めたはずだ。
誰であろうと、ナナスに仇成すならば討つのみ。
それ以外のことは考えるな、自分は唯の肉切り包丁に過ぎないのだ。
迷いを断ち切るように、リックは更に歩を早めた。
葉月を犯したカカロは、ポルトガルから離れた物陰に身を隠し身を休めていた。
先ほどの女の具合は非常に満足のいくものだった。
カカロは満足げな顔をながら噛み付かれた唇を撫でた。
他にもなかなか具合の良さそうな女も沢山いる。
この遊戯も悪くないのかもしれん。
それに、魔人と名乗る奴等は行った。
勝ち残れば『神』が願いを叶えてくれると。
それが真実ならば、もはや箱に頼る必要も無い。
これほどの事をしでかすのだ、神というのもあながち冗談でもないだろう。
しかし、悪魔の代わりに神を頼るとは我ながら節操の無いことだ。
そう思い、カカロは少しだけ笑みを浮かべた。

続けてカカロは名簿に目を通す。
どうやらナナスやリックもいるようだ。
目的のため利用してやるのもいいだろう。
そう、これまで通り、私の思い通りを成し遂げるための道具として。
クククと笑いを漏らし、カカロはこれまで以上に邪悪に口をゆがめる。

ここで僅かな食い違いがあった。
他の二人と違い、カカロがこのゲームにつれてこられたのはパンドラの箱を開く前。
つまり、彼自身は自分の本性がナナス達に知れている事を知らないのだ。

微妙なすれ違いを抱えながら、ママトトの民は進む。
それぞれの思いを持ちながら、運命に近づくように、遠ざかるように。

【一日目朝 シャングリラ】
【ナナス: 状態:良好 アイテム:鉄壁の学聖ボタン】
【一日目朝 ゼス宮殿】
【リック: 状態:良好 アイテム:不明】
【一日目朝 Mランド近郊】
【カカロ: 状態:良好 アイテム:不明x2】



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