運命の分岐
死のう…
風が吹き荒ぶ城の屋上で深山奏子は決心した。
(わずかな間でしたけど姉様と過ごした日々、本当に幸せでした、私はその思い出を胸に先に逝きます。)
自分が最後まで生き残れるとは思えない、
奏子の脳裏に無残な最期を遂げた、ガレイズとななこの姿が蘇る。
あんなに苦しそうな、そして悲惨な死に方だけはいやだ、いや、ヘタに生き残るともっと苦しい死が待っているかもしれない。
だから、少しでも楽な方法で死のう…幸せな思い出だけを考えながら。
奏子はまた一歩足を進め、バルコニーの手すりから身体を乗り出す。
地上が遠くかすんで見える、ここから落ちればきっと痛みさえ感じず楽に死ねる。
最初は支給品である長剣で喉を突こうと思ったのだが…刃を見るとあの巣での出来事を、
自らの手で自分を犯した男を処断しようとしたあの時の記憶が蘇り、握ることすら出来なかった。
(お別れです姉様、私はここで死にます、でも姉様だけはどうか最後まで生き残ってください)
奏子はまだ最愛の人の温もりと残り香がかすかに残る手をそっと撫でる。
(姉様の手…暖かくて、そしていい匂いがしたなぁ)
奏子はゆらゆらとバルコニーの手すりの上に乗り、はぁはぁと呼吸を整える。
死ねる…今なら死ねる。
「さよならっ!姉様!!」
そのまま遥か下の地上に身を投げ出そうとした時だった。
「バカっ!何やってるのよ!!」
奏子の襟元を誰かが掴み、そのまま彼女をぐいと引き戻す。
「はなして!離してください!!私が生きていたって姉様にご迷惑をかけるだけ…」
ぱあんと奏子の頬が鳴る。
「ほんとにバカね、その大事な姉様はあなたを最後まで助けようと、傍に置こうとしてたのを忘れたの!」
(この人…)
奏子は自分を生者の世界に引き戻した金髪の少女をみてあることを思い出す。
(あの時私の背中を押してくれた人だ)
本当に一瞬だったが、奏子は確かに覚えていた。
「少しでもあなたのことを迷惑だなんて思っていたら、絶対あんなことはしないはずよ…だから」
そこで少女は少し考えてから奏子の肩を両手で掴む。
「あたしがあなたの姉様に会わせてあげる」
「え…」
(そんなご迷惑をおかけ)
「迷惑なんかじゃないわよ全然、おせっかいと思ってくれても結構よ…
少なくとも今死のうとしてる誰かを見捨てて先に進むほど人間腐っちゃいないわ」
奏子の機先を制するように少女はまくし立てる。
もう奏子には彼女に反抗する力は残ってなかった、死のうとするにはそれなりの力と決意が必要なのだ。
それに…やっぱり死にたくなかったし、この状況でこんな言葉をかけてもらえるとも思ってなかったのだろう。
奏子の目から安堵の涙が零れだす。
その頭をやさしく撫でてやりながら、少女は、七荻鏡花は思う。
(このアタシが魔物の味方をすることになるなんて…いずみが聞いたら何て思うかしら?)
彼女が姉様と慕う比良坂初音が魔族だということは最初から容易にわかった、だがそれと同時に彼女がこの深山奏子を思う気持ちも
紛れもなく真実だということも。
だから…彼女もまた初音に会い、確かめたかった…あの時読めた感情は真実なのかどうかを。
【一日目朝、悪の塔頂上】
【深山奏子: 状態:良好 アイテム:バイロード】
【七荻鏡花: 状態:良好 アイテム:不明】
【備考:バイロードについて】
リーザス一の剣士である赤の将に代々受継がれてきた魔法の剣。
刃は赤く輝く魔法の光で出来ている為、非常に軽い。
また、使い手の意思によりある程度のその長さを伸縮が出来る(短剣程度〜超長剣)。
しかし切れ味はそれほどでもない。
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