藤崎編・2






 打神鞭の反応がなくなって5時間以上が経過していた。
 あのあと何度も打神鞭をいじりなおし、火竜ヒョウを確認し、乾坤圏を
使ってみた。結論したのは宝貝は完全に使えなくなったということだ。そ
して――ぞっとした。
 編集が気付いて宝貝の力を封じたのだ。さすが編集部、打ち切りも方針
変更も思いのままってわけだ。
 問題は――なぜ編集が対応策をとれたのかだ。考えられる理由は一つし
かない。藤崎は支給の地図の裏に鉛筆を走らせた。
『盗聴されていると思う』
島袋は目を丸くした。
『もう宝貝は使えない。だが、俺の考えていることが上手くいったら俺達
は生き残れるかもしれない。』
『考えていることって?』
『あの仮編集部を出るとき、編集の連中がいた部屋をみたか。』
島袋は首を傾げた。『おれ、余裕なかった』
『編集がずらっと並んでいたし、編集長もいた。それに、ちょっと毛色の
変わったヤツがいた。印刷屋だ。どういうことか、わかるか?』
藤崎は少し間をおいて書き出した。
『俺達が打ちきられてもジャンプはなくならない。そりゃそうだ。優勝者
は連載を続けられるわけだからな。じゃぁ俺達の打ちきられた枠はどうする?』
島袋の顔が上がった。『・・・あ。』
『そう、代原だ。おそらくヤツらはあの仮編集部で編集作業に追われてい
るはずだ。』
藤崎はいったん書くのをやめ、趙公明のような仕草で両手を広げた。
『その代原をめちゃくちゃにする。』

『けど、どうやってやるの?編集部に近づけないのに。』
『おそらく俺みたいに遠隔攻撃しようとしても、漫画作品の能力じゃ届か
ないだろう。だから・・・インクの詰まったドラム缶をぶつける。』
『木かなんかでっかいパチンコを作って飛ばすとか?』
『ロープと滑車だ。要するにロープウェイさ。』
『でもどうやってロープを貼るの?投げても届かないし、宝貝も使えない
んじゃ。』
 そこで藤崎はにやっと笑った。
『実のところな、俺がこの作戦を思いついたのはこれがあったからなんだ。』
 藤崎は懐からゲーム機を取り出した。『これゲーム機じゃ』島袋
は釈然としないようだったが、藤崎はゲームの電源を入れた。レベルを選ん
で十字キーの上を押すと、近くにあった木が、ふわっと浮き上がった。藤崎
と島袋の目の前まで。
『そう、PSYCHO+だ。編集もこんなものまでは頭が回らなかった
ようだな。』
 島袋が二度大きくうなずいた。『すごいよ、藤崎さん!』と書いた。なん
だかうすたの漫画みたいだなと思った。いや、どうでもいいことだが。
 藤崎は空を見上げた。
 これで迂回すれば禁止エリアにかかることもない。だが、やってみなけ
れば成功するかはわからなかった。
「さ、早くしようか」
藤崎はロープの端を木に結びつけ、PSYCHO+を手に持った。



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