つの丸&森田
つの丸は泣き出したい気分だった。
もし、自分が今流行の萌え絵を書ける漫画家だったなら、
誰か、そう、無難に連載を続けることが出来そうな漫画家を探し当てて、
一緒に連載を続けることができたかもしれない。
だがつの丸は『汚い』と評される事が多い、独特の絵柄のギャグしか描けない
ある意味不器用な男であった。こんな時代遅れの男と誰が行動を共にしてくれるだろう?
こんなことでは誰も信用できなかった。
ただ一人、昔気質の作風を守り続けるあの作家を除いて・・・。
突然、背後の茂みがガサガサっと音を立てた。
つの丸は飛び上がりそうになりながら、反射的に音のした方へ己の武器である鬼笹(槍)を向けた。
茂みの向こうにガクランが見えた時、つの丸は思わず祈った。感謝の祈りであった。
「・・・!?森田先生?森田先生ですか?」
「・・・つの丸!」
二人は駆け寄り、固く握手を結んだ。
「森田先生、よくぞご無事で・・・!良かった・・・!」
「つの丸先生こそ、生き残っていらっしゃったんですね!」
ああ、なんと言う偶然なんだろう。この状況でこの人と出会えるとは。
やはり少年漫画の神は、我々正統派少年漫画を見捨ててはいなかったのだ。つの丸は改めて
漫画の神に感謝した。
その時森田が、ちらりとつの丸の手元に目をやった。
「つの丸先生・・・。」
その目線の先には鬼笹が今だ森田のほうへと向けられたままであった。
「ああ、失礼。危なっかしいですね。」
「いや、先生なかなかいい武器持ってますね。ちょっと見せてくれません?」
「ん?ああ、いいですよ。」
「へ〜。どれどれ・・・。」
そういって鬼笹を渡されたとたん、森田はすっと鬼笹の刃をつの丸の方へと向けた。
「・・・!?も、森田先生!?」
「行けよ。さっさとどこかへ移籍しなよ!」
「や、やめてくれ!森田先生!どうしてあなたほどの人が!」
「うるせえ!おまえはまだ若い!どこででもやり直すチャンスがある!
だが俺にはもうジャンプしかねえんだ!この路線でやっていくしかないんだ!
わかったらさっさと行け!なんなら俺が打ち切ってやろうか!?さあ!行けよ!」
つの丸はその時わかってしまった。森田もまた必死なのだと。
いいじゃないか。熱い男たちの青春模様の夢を見せてくれただけでも。
今まで十分楽しませてもらった。この人に打ち切られるのなら、それもまた本望でござる。
「俺を切ってください、森田先生。」
つの丸は静かに言った。
「俺は先生の変わらない漫画が好きだった。これからもジャンプであなたの漫画が読みたい。」
そして彼は静かに目を閉じた。
・・・鬼笹は沈黙したままだった。
目を開けると、涙を流す森田の姿があった。
「・・・森田先生。わかってくれたんですね・・・。」
「・・・つの丸ゴメンつの丸ゴメンつの丸ゴメン。」
わっと男泣きしながら抱き合う二人。
そのため、背後に忍び寄る影をまったく感じることができなかった。
一向に気づかない二人の頭上で、垂れ乳ヌンチャクが一閃。
「流行がどうとか、時代がこうとか、まったくみみっちい奴らじゃわい。」
そう呟くと、『時代を超えてしまった男』漫☆画太郎は去っていった。
あとに頭を割られた二人の男を残して。
森田まさのり 打ち切り
つの丸 打ち切り
【残り25人】
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