幕開け






忘年会の会場で次々と倒れる漫画家とその関係者。
空調に密かに睡眠剤が混入されていたのだった!
目を覚ますとそこは見知らぬ教室。
何が一体どうしたんだ。顔を見合わせるジャンプ連載陣。
とそこへ荒々しい長靴の音と共に姿を現したのは
なんと前編集長マシリトであった!

「げ、マシリト?!」
「はいはいはい皆さん静かにー。静かにしないと原稿ボツにしますよー。
 はいじゃあ説明しまーす。
 日ごろジャンプの紙面をクソ漫画で飾っているみなさんに
 ここに来てもらったのは他でもありませーん。
 今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」
「(゚Д゚)ハァ?」
「ルールは簡単でーす。誰か一人残るまで殺しあってもらいまーす」

「そんなばかな」
椅子をがたんと鳴らして誰かが立ち上がり、うわずった声を上げたので、
尾田は顔をそちら――うすた京介の後ろの席へ向けた。
参加者最年長の秋本治だった。顔がほとんど青を通り越して灰色になり、銀歯とシュールなコントラストをなしていた。
参加者の何人かが、この時秋本に、何か強引な反論をしてくれるものと期待したかもしれない。
これは何かの間違いだ。秋本先生、その辺をいつもの両さん節で丸め込んでくれ。
しかし、秋本が言い出したのはごくつまらないことだった。
「わっ、私は20年以上も連載しているんだ。そんな僕が、打ち切りゲームにえっ、選ばれるわけなんか――」
秋本は、震えているせいで、いつもより余計に神経質に聞こえる声でそれだけ言った。
鳥嶋は苦笑いして首を振った。「あのね、秋本センセ」
何だかねばつく口調だった。
「平等っていうことがどういうことか知らないわけじゃないだろ?いいですかあ?
漫画家は、例外を除いて平等なんです。昔人気があったからって、その人が特別扱いを受けていいわけがありません。
君たちにはそれぞれ境遇があります。才能のある人も、ない人も、そりゃあいまーす。
だけど、そんなふうに自分にはどうしようもないことで君たちの人気が決まったりはあまりしないんです。
君たちは、自分たちの今の人気を自分たちで勝ち取らなきゃならない。
だから秋本先生も自分だけが特別なんてそんな勘違いを――するんじゃない!」
いきなり一喝されて、秋本はぺたんと腰をおろした。

「朝にはズームイン朝!のCMで君たちのことが流れまーす。
もちろん、ゲームは秘密ですから終了まで詳しいことは発表されませーん。
えーと、けど、アシスタントと担当達には連絡済みです」
まだみんな茫然とした表情をしていた。
「何だー。まだ信じられないのか君たちはー」
鳥嶋は困ったなというふうに頭をかくと、入り口の方に「入ってこい」と呼びかけた。
再び入り口の引き戸ががらっと開き、三人の編集がどやどやと入ってきた。
三人は中腰で何か厚手のビニールでできた寝袋のようなものを抱えていた。
編集の一人が袋のジッパーに手をかけ、ぎゅっと横へ引いた。
「え、何?」という声やがたんと机や椅子の動く音がし、すぐにだみ声のコーラスが膨れ上がった。
尾田もごくりと唾を飲み込んだ。
袋の中から読者コーナー担当の井沢がのけぞっていた。
薄いと評判の髪の毛には点々と脳味噌と鼻水らしい灰色のゼリーが付着している。
袋からはみ出し、教壇の前に垂れ下がった左手には「ジャンプ団打ち切り」と書かれた紙が握られていた。



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