小畑






茂みの中から半分だけ顔を突き出し、小畑健は、息を呑んでその光景を見守った。
彼には、誰かを、少なくとも自分から傷つけようなどという気は毛頭なかったので、
自分が立てた物音が二人に打ち切り号を知らせたなどということは、思いもよらなかった。
ただ、ジャンプ陣でもずば抜けたほのぼの作家、その二人の体が、
並んで、モザイクに覆われた崖の向こうに消えるのを、茫然と見送っていた。
切り立った岩壁に嬌声の波が打ち寄せ、ゆるやかな風に吹かれて、
八神の手からこぼれた修正インクの小さな滴が草の上に散った。
背後からいとうみきおが「どうしたんですか、小畑先生?」と訊くのが聞こえても、小畑は、しばらくただ、震えていた。



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