〜南春香の華麗なるミッション?〜






この世界に何故法というものが存在するのか。
人を殺す人間がいたとしよう。 彼はどうして殺すのか。
恨みを晴らすため、己の障害を排除するため、あるいは単なる憂さ晴らし。
だが第三者にとっては理由などどうでもいい。 
人殺し。
命を奪った人間が受ける称号である。
人々はそのレッテルに恐怖し、そして消そうとする。
人を殺したという人間がいつ己の命を奪うのかが不安でたまらないのだ。
盗みがいけないのは盗まれたくないから。
暴力がいけないのは傷つけられたくないから。
罪には罰を。 犯した者には裁きの鉄槌を。
人は種全体の防衛のために法を生み出した。

だから人々は今まで平穏を過ごすことができたのだろう。
しかし彼女にとってはそれも今日で終わり。
法という柵から投げ出された一匹の哀れな子羊がここ一人。

「本当に、殺し合いなのよね・・・・・・?」

少女の名前は南春香という。
たった今、殺し合いという名の無法地帯へと足を踏み入れてしまった少女だ。
南春香は困惑していた。
バトルロワイアルなんてなんかの冗談だ、テレビのドッキリ企画か何かだろう、
受け入れられるはずもない現実を突きつけられて、春香は己を誤魔化すことしかできない。

「とりあえず、この鞄の中を覗いてみようかな」

考えていても仕方がない。 支給品が入ってると言われたデイバッグの蓋を開けてみる。
エアガンでも入っているのだろうか、いやむしろ入っていて欲しい。
入っていればこれが殺し合いなんてものじゃなく、ただのゲームだと思えるから。

「ははは、そんなわけないか・・・・・・」

中から出てきた細長い物を見て春香は落胆する。
銃だったらまだよかったのかも知れない。
ただのレプリカだという考えに逃げることができたから。
だがこれは違う。 紛れもなく命を搾取するための物。
バヨネットという銃剣の刀身であった。
二本あるので本で読んだ宮本武蔵みたいに構えてみる。 重い。
そして片方を手ごろな木に向かって振ってみる。 刺さった。
力を込める。 中々抜けない、抜けた。

「やっぱり本当なんだ」

溜息をついた彼女は、バヨネットをしまうことなくそのまま夜の街の中を歩き出した。

☆ ☆ ☆ ☆

「虫唾ダァァァァァッシュッ!!」

夜の街にはおよそふさわしくない叫び声が響き渡る。
声の主はデス・ザ・キッド。 世界の秩序の番人である死神の職人の一人だ。
彼はこのバトルロワイアルに怒っていた。
これは罪の無い人間に殺し合いを強要させ、絶望に陥れていく死のゲーム。
善人に、血に濡れることか死ぬかを選択させるなんぞ悪魔の所業。
おまけに自分達は高みの見物をする始末に対して激しい怒りを感じている。

わけではない。 いやそれも入っているだろうが。

「なんだこの地形は!」

地図に対して怒っていたのだ。
デス・ザ・キッドは左右対称(シンメストリー)を極めて愛している。 それは狂信といってもよいぐらいだ。
端整な顔立ちはもちろんスーツも特注の左右対称(シンメストリー)。
今は持ってないが武器も左右対称(シンメストリー)の二丁拳銃。
好きな数字は8。 縦に切っても横に切っても美しい。 アラビア数字なところもポイントだ。 いや漢数字も好きだけど。
髪型については・・・・・・げふんげふん!

「泉の形も位置もおかしい! 東西南北均等に施設を置かずみんなバラバラ、何故重要な施設のLIAR GAME会場を中央に置かない!
こんなところに山が立っているのも不愉快だ、中央に置くべきだろう!
おまけに電車の路線の形が極めて醜い! 西側により過ぎて一駅多いせいで歪んでしまっている!
駅の数を東西均等にして端の駅を同じY軸に置くべきだろうが!
そういえばここは・・・・・・商店街か!? これは酷い店の並びがバラバラだと!? ああ眩暈が・・・・・・」

地図に描いてある拠点の一つ一つを指差しながら怒鳴りつける。
そして息を切らしながら目の前に広がる光景に思わず膝を着いてしまう。
彼の眼前に広がるのは商店街。
普通の商店街にしか見えないが、彼にとっては看板の位置が左右対称(シンメストリー)でなかったり、
店の広告用の旗が右側にしかなかったりと極めて不愉快な光景なのだ。
何故主催者は自分をこのような醜い空間に放り込んだのだろうか。 自分が何か酷いことをしたのだろうか。
怒りを通り越してもう嫌になってくる。

「クソ、鬱だ、死のう」

あげくの果てにいじけて地面に文字を書き始める始末。
もちろん書くのは数字の8。 何故ならその形が一番美しいから。

「あのぅ・・・・・・どうかしたんですか?」

穏やかな声がしたので上を見上げてみるキッド。
足が映る、美しい。
胴が映る、美しい。
胸が映る、ここで彼女の服装を把握した。 美しい。
そして頭。

「虫唾ダッシュ」
「へ?」

少女の顔、いや正確には髪型を見た途端に口をへの字に曲げるのであった。


☆ ☆ ☆ ☆


「それじゃあ貴方は殺し合いに乗っているわけじゃないんですね」
「当たり前だ。 俺様が善人の魂を狩るわけがないだろう」
「それはよかった・・・・・・」

少女が無法地帯に足を踏み入れて、始めに出会ったのは秩序を守る少年であった。
キッドという少年は、悪という存在を許さない正義感溢れる少年だ。
『死神』や『死武専』、『魂』など若干首を傾げるような発言もあったが、彼が悪い人間でないことはよくわかった。
話していたときは落ち込んでいたけれど、自分の支給品のバヨネットを譲ったら元気を取り戻してくれた。
代わりに「1丁は美しくない」とサブマシンガンを貰ってしまったのだけど本当に良かったのだろうか。
話せば話すほど変わった少年である。

「参加者名簿を見るとあいつらはいないか。 新たに同じ型の銃を二丁揃えなければいけないな・・・・・・」
「知り合いはいなかったんですか?」

なんで知り合いに銃の話が出てくるのだろう、僅かな疑問を閉じ込めて当たり障りのないことを尋ねてみる。

「いないな。 だがお前はいるのだろう? 名前からして妹達ということだな。
春、夏、秋、冬・・・・・・美しい並びだ」
「え? ちょっと待って!」

この殺し合いには確かに自分の妹達も参加している。
夏奈、千秋、今まで十年以上も同じ生活を共にした、血の繋がった大切な姉妹だ。
だが自分の妹は二人のみ。

「ん? 冬馬というのは男の名前でもあるな。 そうなると女3人と男1人ということか・・・・・・
そこは次女を男にするべきだな。 そうなれば女、男、女、男とバランスの良い並び順になる」
「違うの! そういうことじゃないの!」

無茶苦茶なことを言い出すキッドに慌てて反論する。
夏奈と千秋の妹を持った覚えはないし、ましてや弟が生まれたなど聞いたこともない。

「冬馬なんて子聞いたことないわ! 多分その子は単に名字が同じだと思うの」
「それは紛らわしいな・・・・・・南というのは割りと多いラストネームなのか。 今度椿にでも聞いてみるとするか」

椿というのは彼の知り合いだろう。
ともかく変な誤解が解けたみたいなのでよしとする。

「じゃあキッドくん、何処行こうか?」

夜の街を歩きながら、春香はキッドに問いかける。
現在いる位置は商店街、地図の最南西に位置しているのであまり人が集まるとは思えない。
となると夏奈や千秋に会える確立もかなり低くなるだろう。

「H6の地点だな」
「電車に乗るの?」

H6といえば駅があるところだ。
確かに電車に乗って各地を周っていけば広い範囲を探すことができるだろう。
だがそれならばK4の駅のほうが近い。

「いや違うな」

キッドは春香の意見を否定する。
ここで春香はますます首を傾げることになる。
何故彼は他に特に何もないH6地点に拘るのだろうか。
まあどうせ虱潰しに妹達を探すから構わないのだが、やっぱり行くからには理由が欲しい。
そして彼の口から出された答えに春香は唖然とすることになる。

「そこが地図の何処から見ても左右対称(シンメストリー)だからだ」

南春香の苦難はまだまだ始まったばかりである。

【N-2 商店街 / 1日目 深夜】
 【南春香@みなみけ】
 [状態]:健康
 [装備]:イングラムM10(弾数32/32)
 [道具]:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×5、未確認支給品×1〜2
 [思考]
基本:夏奈と千秋を探す
1:キッドと行動する。
2:とりあえずH6を目指す
[備考]
※南冬馬と出会う前(2巻終了時)に参戦です。

 【デス・ザ・キッド@ソウルイーター】
 [状態]:健康
 [装備]:バヨネット×2@ヘルシング
 [道具]:支給品一式、未確認支給品×1〜2
 [思考]
基本:主催者を倒して脱出する
1:春香と行動する。
2:H6を目指す!
3:二丁拳銃(できれば同じ型)を手に入れる。
[備考]
※参戦時期はソウル達と出会う前です。



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