直歪交恋






少年はぶらぶらと歩いていた。
あてもなく、目的はあっても未来が無く。

怪物は身を潜めていた。

少年はぶらぶらと歩いていた。
参加者表に失恋相手がいたのも今は気にせず。

怪物は身を潜めていた。

少年はぶらぶらと歩いていた。
獣道から移って急に整備された道をあてもなく。

怪物は何かを感知した。

少年はぶらぶらと歩いていた。
道の先にある納屋が目に留まった。

怪物は誰かを感知した。

少年はとりあえず納屋に接近した。
中にいるかもしれない者の事は考えもしなかった。

怪物は戦闘態勢に入った。

少年は扉を開けた。
薄暗く、誰もいない。そう見える。

怪物は頭部に狙いを定めた。

少年は″何か≠察した。
咄嗟に一歩下がる。身覚えがある。

怪物は攻撃を失敗した。

少年は何かが掠めるのを感じた。
目の前を、何かが通過した、既視感。

怪物は既視感を感じた。

少年は答えを導き出した。
″天井に張り付いていた暗殺者≠フ方を向く。

怪物は侵入者を理解した。



目が合った。



「やあ、マンティコア」
「早乙女君…!!」

                   ●





「ご、ごめんなさい」
「仕方ないよ、この状況じゃ」
「でも…」
「それよりも、天井から降りて来たら?」
「…」
―――すたっ、
「ずっと天井に張り付いているのは疲れるだろう?」
「早乙女君…」
「いいから。とりあえず――これからのことを話そう」

                   ●

「…できるの?そんなこと」
「君一人や僕一人では無理だろう。でも二人なら難しくない。
さらに、″スレイブ≠燉用すれば難度は下がる。知り合いを攻撃できないような
お人良しでなくても、隙を作るぐらいは簡単だ」

早乙女正美の提案は―――ゲームに優勝する、という単純なものだった。

「それは解ったけど…早乙女君、優勝者は一人なのよ?最後に私と早乙女君が残ったとして。
確実にどちらかは死ななければいけないのよ?」
「それは問題ない。あの男が言っていただろう?願いが一つ叶うと」

――それに、生き残った最後の一人には、何でも願いをかなえてくれるっていうから頑張ってね――


「それで、君が優勝したら僕を生き返らせてくれればいい」
「…信用できないわ。本当に願いなんか叶えてくれる訳が――」
「そもそも願いを叶える必要性が彼らには無いんだ。それを自分達から言い出したんだ、まず間違いないだろう」
少年としては、別に圧倒的な存在に殺されれば文句はないし、怪物が生き残れればそれでいいとも思っていた。
―――少年は、自分も含めて『人命』に価値を見出していなかった。
「…そもそも、死人を生き返らせるなんて事ができるの?」
「僕はあの光に飲まれて死んだはずだ。しかし僕は生きている。″蘇生≠ヘ十分範疇内だろう」
「…言われてみればそうね」
怪物にしてみれば、自分も死んだはずだから確かに“言われてみれば”の話だ。


                   ●

「どちらにしろ僕達には選択権は無いんだ。言われた通り優勝するしかないだろう」
「わかったわ」
怪物は簡潔に了承した。
「さて…とりあえず、やるべきことは――」

少年は暫定的な指針を打ち出した。
「誰か、できればあまり他人と関わらないタイプの人間を捕獲しないといけないだろう」
「″スレイブ≠作るなら交友関係の広い人間の方がいいんじゃないの?」
「それはそれで必要だが――」
少年は一拍置いて言う。
「まず、君がコピーする為の人間が必要だろう」
当たり前のように″人を殺す”ということを。
「確かに裸はまずいわね。なるべく早めに調達しないと――」
無論、それを指摘する者は誰もいなかった。


少年と怪物はこうして再臨した。
ただただ、ただただ訳も無く殺すだけの、人食いと。
ひたすら、ひたすら孤独だった人造なる、化け物が。
果たして彼らの銃と万華鏡は何を紡ぎ出すのか。
先には乾いた破滅が眼に見える様であり―――

【D-3/納屋】
【早乙女正美】
 [状態]:平常
 [装備]:なし
 [道具]:ベレッタM92G(残弾0発)
     衝槍弾頭(50発)
 [思考]:ゲームに乗る。 マンティコアを優勝させる。自分はどうでもいい。

【マンティコア】
 [状態]:平常 裸 誰もコピーしていない状態
 [装備]:なし
 [道具]:リシャッフル
 [思考]:ゲームに乗る。 優勝後、早乙女正美を生き返らせる。



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