世界一美しいキスシーン
惨劇から幾ばくかの時間が過ぎ、再び静寂に包まれるサーティワン。
「ああ、先輩……」
あれから1145148101919秒くらい経っただろうか。
頭を何度も殴られて、立ち上がる事もままならない。
けれど、胸の傷からは止まること無く大量の血が流れ出ている。
もう、遠野は助からない。このまま静かに死を待つだけなのだろう、と悟った。
すみません先輩、僕は愚かでした。先輩を守る事が出来なくて、悔しいです。
でも最後にひと目、先輩の顔を見たかった……。
「ハァッ、ハァッ……」
誰かが駆け寄ってくる足音がする。
鉛のように重いまぶたを開き、音の方向へ顔を向けた。
――神様が最後に見せた幻なんじゃないか、と錯覚した。
だけど、耳元に迫る彼の息遣いと、肩に触れるてのひらの感覚は……。
「おまたせ。……おっ大丈夫か!?」
「先輩……マズイですよ……」
「あ、待って下さいよ!」
必死で呼びかける男は、紛れも無く遠野が愛した先輩だった。
遠野はか細い声で、想いを伝えた。
自分は、先輩の事が好きでした、と。
野獣先輩は泣きそうな顔で遠野の肩を抱きかかえ、そして言った。
「俺も、お前のことが好きだったんだよ!」
二人は熱烈なキスを交わした。
舌を絡ませ、その愛を命の限り共有した。
野獣先輩が口を離した時、遠野は既に動かなくなっていた。
「オオンッ……アオンッ……!」
男泣きッ――!
野獣先輩は醜いほどに顔を歪め、ボロボロと涙をこぼした。
腹部から、胸にかけてッ、悲しみと虚無感でいっぱいになった。
周囲には遠野の他に、二人少女の遺体が転がっている。
鮮血に染まったアイスクリーム屋は、地獄絵図でしか無かった。
「頭に来ますよ〜!」
ひとしきり泣いた後、野獣先輩は激怒した。
彼は殺し合いを憎み、そして主催者であるGOを憎んだ。
復讐してやる。必ずやGOの元に辿り着き、この手で――
自身のデイバッグに入った二丁拳銃を取り出し、両手に構える。
笑顔の失われた野獣先輩の顔は、お笑い芸人の今田耕司に似ていた。
【遠野@真夏の夜の淫夢シリーズ 死亡】
【残り24人】
【ファミリーモール二階/サーティワン/1日目/深夜】
【野獣先輩@真夏の夜の淫夢シリーズ】
[状態]健康、今田耕司先輩
[所持]基本支給品、二丁拳銃、ランダム支給品0〜2
[思考]GOを抹殺する
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