そして僕にできるコト
“殺し合いを強要され、デイパックを開けたら中から妖精が出てきた”
いや、冗談だと思うだろうがマジなんだなこれが……。
このちっちゃい女の人の名前はリインフォースU。
参加者ではなく支給品という扱いだが、俺たちと同じく知らぬ間に連れてこられたらしい。
さらに話を聞くと魔法に異世界に時空管理局……どう考えてもまともじゃない。
だけど目の前に小さな人がいて、宙に浮いてんだから信じるしかないよな……。
桐乃……めるるじゃないがマジカルウィッチは実在したぞ。
「あははー。魔法はー、ホントにあったんだねー」
修輔に至ってはあまりの情報量に頭がショートしかけている。
この少女をさらに小さくしたような、まさに妖精といったような風貌の(実際はOLさんみたいな制服を着てるが)リインフォースUからもたらされた情報は驚くべきものだった。
魔法の存在する世界『ミッドチルダ』、京介たちが住む第97管理外世界『地球』、そして次元犯罪者スカリエッティ。
気がついたら狭くて暗いところに閉じ込められていた彼女にとってみれば、逮捕されたはずのスカリエッティがまたこのような事件を起こしていることも驚きであったが。
「つまり『スバル』、『ギンガ』って人は信用できるんだな。逆に『ノーヴェ』、『ウェンディ』、『クアットロ』って奴は怪しいと」
『はい!スバルさんとギンガさんは管理局の頼れる仲間たちなのです。ノーヴェさんとウェンディさんは捜査に協力して更生施設に入っていたはずなのですが……』
ティアナ・ランスターの説得を受け入れ保護されたノーヴェ、ウェンディの両名はJS事件後、海上隔離施設で他の姉妹達と共に更生プログラムを受けていたはずだ。
捜査に非協力的だったクアットロもスカリエッティ共々要注意人物として軌道拘置所に投獄済み。
やはりスカリエッティが脱走し、元部下であったウェンディやノーヴェ、クアットロを解放したのだろうか。
クアットロは高い確率でゲームに乗っている可能性があるが、ノーヴェやウェンディはまだ分からない。
彼女たちが父であるスカリエッティに従うのもありえるし、更生プログラムを受けた結果殺し合いという行為を拒絶することもありえる。
そのためクアットロ以外のナンバーズも今だ味方と断言できる状態ではなかった。
「で、リィンが時空管理局っていう警察的組織に所属してる人間……じゃなかった、デバイスなわけだな?」
『そういうことです。それでもリィンの本領は援護や補佐ですし、なんだか調子も悪いのでいつものように活躍できるかは分からないのですけど……』
リィン自身も己が本調子でないことを自覚している。
正式な参加者ではなく支給品扱いされている自分が出すぎたマネができないようにという主催側の調整なのだろう。
その最たる例が『参加者から20m以上離れることができない』という制限だ。
この制限を破った場合に課せられるペナルティは分からない。だが何か起こってからでは遅いのだ。ここは従うしかない。
本来民間人である修輔や京介を巻き込むべきではないが、この制限がある以上協力してもらう他ない。
せめて管理局員であるスバルやギンガと合流できればいいのだが。
『……京介さん、生命反応感知しました。3人分です。一階のロビーですね』
「3人か……団体で行動してるってことは俺たちみたいに寄せ集まってるか、それとも組んで殺しまわってるやつらだろうな。どうする?リィン」
『様子だけでも見てみましょう。ギンガさんやスバルさんのことを知っているかもしれません。少しでも危険だと判断したら隠れてやり過ごすのです』
魔力反応がない以上ナンバーズや管理局の者ではないだろう。だがギンガ、スバルとの合流を最優先とするリィンにとって情報は少しでもほしかった。
放心状態の修輔を残し、京介はリィンを伴い慎重にホテルのロビーへと向かっていく。
先導するリィンが一階ロビーにまで辿り着くと、そこにいたのは男性2名と女性が1名。
女性は怪我をしておりロビーのソファに横たわっており、もう一人の男性……精確に言えば少年であろう人物は俯き下を向いている。
そしてもう一人いるはずの人物の顔はよく見えない。帽子が邪魔をしている。
「……おいっ、大丈夫そうなのかリィン? 高梨も一人じゃ心配だ……早いとこ引き上げたいんだが……」
『もうちょっと……もうちょっとだけお願いします京介さん』
京介に視線を向け、もう一度ロビーを見たとリィンは目を剥く。
さっきまでそこにいた、帽子を被っている男が消えている。
「……こんにちわ、小さなお嬢さん」
その声にリィンは背筋が震えた。
一抹の気配も感じさせず、一瞬にして男はリィンの背後へと移動していたのだ。
魔力反応もなにも感じ無かった。これだけの技量を持つ者は管理局でも一握りしかいない。
「リィンっ!!」
思考するよりも先に京介の身体は動いていた。
リィンの背後を取った男に殴りかかるもこれもまた一瞬にして地に伏せさせられる。
しかしその攻撃は柔の如く。倒された京介も自分で転んだのかと思ったほどだ。だが痛みをまったく感じ無い。
「あまり手荒いことはしたくないものでね。できれば協力的な関係を築きたいものだが……」
これが風(ウインド)の異名を持つ傭兵、高槻厳との邂逅だった。
▼ ▼ ▼ ▼
「ちょうど怪我人を寝かせることのできる場所を探していてね。このような場にいたのが君たちのような善良な者で本当に助かったよ。ありがとう」
『リィンたちも高槻さんのような人と最初に出会えてよかったです。最悪戦闘も覚悟していましたから……』
ホテルの部屋の住人は二人(三人?)から五人へと急増した。
高槻厳と名乗る紳士然とした帽子を被った中年の男性に、今は気を失っているが引くほど美人なことであろうことだけは確かな褐色肌の女性。
そして俯き、まったく反応を示さない金髪の少年。
女性の方は名を孫策伯符。金髪の少年に至っては厳も名すら聞けていない状態だった。
よほど辛いことがあったのか、憔悴しきっている彼を見つけた厳が保護したらしい。
大怪我を負った女性と心に怪我を負った少年を保護していたことで信用を得られやすくなったのは怪我の功名か。
「時空管理局……なるほど、それなら彼女のことも合点がいく。恐らくは私や京介君たちが住む『地球』とよく似た、平行世界の住人なのだろう。
それも私から見れば千年以上前のね」
孫策伯符、中国の後漢末の武将。
若干19歳にして千人余りの兵をまとめ軍を成し、一代で呉国の礎を築いた英雄。
そう厳は記憶している。
ラオウと名乗る巨漢にただ一人立ち向かっていくなどただの女にはできない。
もし平行世界というものが存在するなら、小覇王孫策が女であった世界があってもおかしくはない。
『ARMS……それにジャバウォックの爪……管理局も把握していないのにそんな技術が……。でもそんなのって……ううん……』
厳からはギンガ、スバル、両名の情報は得られなかったがそれ以上にリィンの頭をARMSという単語が悩ませる。
『ARMS』
人間の能力をより高みへと昇らせるために生み出されたとされる、炭素生命体と珪素生命体のハイブリッド生命体。
ARMSは人間を越えた能力を持ち、怪我の治癒速度の向上や、一度受けた攻撃に対する耐性ができる他、その人間が元から持っている能力も引き上げられるという。
そんなものもはやロストロギア(異世界に存在した高度な魔法技術の遺産)クラスの技術だ。
それが魔法すら途絶えたとされる第97管理外世界『地球』に存在するというのか。ならばなぜそれほどのロストロギアを管理局が把握することができなかったのか。
「魔法に改造人間に三国時代の人がお姉さんになっててー、ははははは、妖精さんまでいるよぉ」
「おい、高梨そろそろ正気に戻れ……非現実的過ぎて俺だってあたまおかしくなりそうなんだからよ……」
情報が修輔の脳のキャパシティをまたオーバーしたのか再びショートしかけている。
理解の範疇を超えた話題ばかりだったので応対は全てリィンに任せていた京介が修輔をこづくと、今まで伏せっていた金髪が顔を上げる。
「えっ……岡崎っ……!?」
「……えっ? いや……俺は高坂だけど……」
がっくりと、再び金髪はうなだれる。
知り合いに声がよく似ていた。ただそれだけだったらしい。
「さて、あと何も話していないのは君だけだ。辛いだろうが、話してもらうよ」
出会ったときからは少しマシになった程度であろうが、出来うる限り情報は聞き出さなければいけない。
厳は父のように優しく、少しずつ話を聞き出していく。
金髪の少年、名前を春原陽平。
光坂高校に通う高校生で妹に芽依という少女がいる。
彼もこのゲームに不幸にも巻き込まれた、厳やリィンと違いなんの力も持たない一般人であった。
彼はゲーム開始まもなく、平沢唯という少女と出会った。しばらく行動を共にし、二名の参加者を発見した少年少女は隠れて様子を伺っていた。
そして………
「そして唯ちゃんは、死んだんだ……」
事の顛末に孫策を除く一同は絶句する。
戸愚呂と言う男の異常性に、そして春原陽平が受けたであろう心の傷に。
自分のせいで平沢唯は死んだのだと、春原は自責している。
“お前は悪くない。全部戸愚呂ってやつが悪いんだ!”
そんな言葉はなんの慰めにもならない。事実春原は唯を守ることができなかったのだから。
それどころか自分の身代わりのようにしてしまった。唯は、自分が殺してしまったのだと。
「ご、ごめん……その戸愚呂ってやつと一緒にいた女の子のことが聞きたいんだけど……」
春原の様子に、遠慮がちに修輔が言葉を挟む。
殺し合いを止めようとしていたことから、戸愚呂と組んだ殺人者ではないことは確かなはずだ。
京介もそれは気になっていた。年格好からして、戸愚呂と一緒にいたのが桐乃という可能性もあった。
春原は曖昧な記憶から女の子の容姿、髪型、着ていた制服などの情報を掘り起こす。
それが少しずつ、修輔のよく知る女の子の姿と一致していく。
「っておい、高梨!お前勝手に一人でどこ行くつもりだ!」
「離してくれよ高坂!今すぐ奈緒を助けに行くんだ!奈緒が助けを待ってるんだ!だから僕が!」
『ふ、ふたりとも落ち着いてくださーい!』
「その通りだ、修輔君。私が行こう」
帽子をかぶり直した厳がすっくと立ち上がる。
奈緒を助けに行くんだと暴れていた修輔も、それを押さえつけていた京介も、二人を止めようとしていたリィンもぽかんと口を開けている。
『だ、だめですよ高槻さん!あなただって怪我をしているんですよ!それに春原さんの話が確かなら相手は人間じゃないんです!せめてギンガさんやスバルさんと合流して!』
「だめだ、時は一刻を争う。すでに犠牲者が出ている以上そのような輩を許すわけにはいかない。それは管理局に所属する君も分かっているはずだ」
それに、と間を置き、厳は修輔、京介、春原と順番に目を向ける。
「子どもが戦おうとしている時に、大人がそれを黙って見ているわけにはいかないだろう?」
厳はリィンのよく知る、守るべきものの為に戦う優しき戦士達の目をしていた。
高町なのは、フェイト・ハラオウン、スバル・ナカジマ。彼女たちと同じく、許せぬ悪を裁き弱き人々を守るために戦う強き戦士の目を。
彼らは強い。だからこそ命を散らせてならない。厳のような人物はこのゲームの希望なのだ。正義のミカタはいるのだと。
諦めかけた人々を奮起させる光になる。
『なら私も行きます!万全ではないですけど私なら援護が――!』
「いや、君は孫策伯符の治療に専念してほしい。それに彼女が目覚めるまで、修輔君らだけではなにかと不安だろう。局員である君がついていてあげなさい」
やはり覚悟は揺らがない。戦場に友は連れて行けぬと言う。
こうなればなにを言っても聞かないのだろう。共に戦えぬのなら、リィンにできるのは笑顔で送り出してやることくらいしかない。
「彼女が目覚めたあとは、リィン君と孫策君の指示に従いなさい。彼女がかの孫策だと言うなら、頼れる人物のはずだ」
「……分かったよ、高槻さん。絶対、戸愚呂って化物を倒してくれよ?約束だぜ」
『リィンたち待ってますから。だから、もう一度ここに帰ってきください。……いってらっしゃいませ、高槻さん』
「あぁ、約束しよう。私も孫策君からまだ礼の言葉を聞いていないのでね。―――では少し、悪の根を一掃してくるとしよう。それでは、また」
軽く会釈をすると、厳は窓から飛び降りた。
「嘘だろっ!?ここ四階だぞ!!」
『って普通に着地してますね……魔法も特別な装備もなしに……』
人間離れした厳の身体能力に京介は目眩がしたがリィンも同じくそれを感じた。
魔力も持たない生身の人間があれだけの身体能力を持つなど理解の範疇を越えている。
『忍術を少々嗜んでいるだけさ』とは聞いていたが、大昔の日本にはあんな忍者が山ほどいたというのか。
「……でも、カッコいいよな。ああいう人を『正義の味方』って言うんだろ。なぁ、高梨?」
「――ごめん、高坂、リィンちゃん。俺、やっぱり行くよ」
「お前まだそんなこと言ってんのかよ!? さっき高槻さんに言われただろうが! ここはあの人に任せておけば」
「そうだね…。そうかもしれない…。俺が行ったって、なにもならないかもしれないよ。でも、奈緒が待ってるから。――高坂だって、自分の妹だったら、そうするはずだろ?」
――――これがもし、桐乃だったら?
俺は高梨のように、危険を覚悟してまで桐乃を助けようと動いただろうか。
あいつからの人生相談は何度も受けた。そのお陰で親父にもぶん殴られた。
だけどこれとそれじゃリスクがまるで違う。ヘタを打てば死ぬ。
ゲームみたいにコンティニューなんかできない、たったひとつの自分の命をベットする殺人ゲーム。
それを桐乃のために賭けられるのか? 俺は――――
リィンももう、高梨を止めようとはしなかった。ただ笑顔で『いってらっしゃい』とだけ告げる。
高梨も『行ってきます』と、自分の荷物をまとめ出て行った。
――――こうして一時は5人もの参加者、支給品であるリィンも含めれば6人いたホテルの住人の数は4人になった。
傷心の少年、春原陽平。今だ眠り続ける孫策伯符。厳の帰還を祈り、治療に専念するリインフォースU。
そして妹のために命をベットした高梨修輔の姿に、自身にとっての『妹』という存在を考えあぐねる兄、高坂京介。
【F-6/ホテルの一室(4階)/午後】
【高坂京介@俺の妹がこんなに可愛いわけがない】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2(未確認)
[方針・思考]
基本:とりあえず桐乃と奈緒を保護する。誰も殺さない
1:高槻厳の帰還を待つ。孫策が目覚めるのを待つ。
2:桐乃を一応探すつもり
【春原陽平@CLANNAD】
[状態]:ダメージ(小)、唯を死なせたことへの罪悪感と無力感
[服装]:制服 (泥だらけ)
[装備]:
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[方針・思考]
基本:誰も殺さずにゲームを脱出する
1:唯ちゃんは…… 僕のせいで……
2:芽衣と憂ちゃんを探し、保護する。
[備考]
※ 唯の死体とデイパックはそのままにしてきたようです
【孫策(雪蓮)@真・恋姫†無双】
[状態]: 気絶中、肋骨骨折、全身打撲、疲労(中)
[装備]:リインフォースU@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2(確認済み) 、ゼロの剣
[方針・思考]
基本:妹達との帰還 殺し合いには乗らない
1: 気絶中
2: 蓮華、小蓮を探す
[備考]
※ 現在リインフォースUによる治療を受けています。
【リインフォースU@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[方針・思考]
基本:このゲームを打破し、スカリエッティを逮捕する。
1: 孫策を治療する。厳の帰還を待つ。
2: ゲーム打倒のため、スバルとギンガと合流する。
[備考]
※ 参戦時期は本編終了後からです。
※ 参加者から20m以上離れられないという制限が課せられています。
※ その他なんらかの制限が加えられているようです。リィンも違和感に気づいています。
※ ARMSの情報を管理局が把握できていなかったことに違和感を持っています。
【E-6/午後】
【高槻巌@ARMS】
[状態]: 疲労(小)、両腕に痺れ、背中に裂傷
[服装]:背広(背中がボロボロ)、帽子
[装備]:特になし
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2(確認済み)
[方針・思考]
基本:この殺し合いの打破
1:闘技場に向かい戸愚呂を倒し、ホテルに帰還する。
2:ゲームに抗う者を助ける 戦えない者は保護する
3:危険人物の無力化、場合によっては殺害
4:弟、崖とケリをつける
【E-6/ホテル付近/午後】
【高梨修輔@お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:
[道具]:華蝶仮面のマスク@真・恋姫†無双、不明支給品1〜2(未確認)
[方針・思考]
基本:とりあえず奈緒と桐乃を保護する。誰も殺さない。
1:奈緒を助けるため、闘技場に向かう。
2:奈緒と桐乃ちゃんを探す
共通事項
・ホワン、桐乃、奈緒、スバル、ギンガ、ナンバーズ、スカリエッティについての情報を共有しています。
・ウェンディ、ノーヴェは殺し合いに乗っているかいないかまだ判断がついていません。クアットロは高確率で殺し合いに乗っていると判断しています。
・それぞれの世界のことや、これまでの経緯を話しました。そのためラオウ、戸愚呂を危険人物として認識しています。
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