オープニング






ここは闇に閉ざされた始まりの地。
一人の男が目を覚ますとこからこの物語はスタートする。

「……ここは?」
目を覚ました男――扇要は辺りを見回す。
そこにあるのは昨日まで慣れ親しんだ自分の寝室の光景ではなかった。
それと同時に自分以外にもこの巨大な部屋に人が存在することに気付く。

「扇!」

それとほぼ同時であった。扇が一人の男に声をかけられたのは。
「玉城か……」
扇も声から相手を察知し、声の主である玉城真一郎に振り返る。
「おいおい、これはどういうことだ?何で起きたらこんなとこにいんだよ?」
玉城もこの状況に混乱しているらしく、当然の疑問を口にする。
「俺にも何が何だかさっぱり分からないんだ。俺も気付いたらここにいて……」
「チッ、一体全体どういうことなんだよっ!!」
焦りと苛立ちから玉城が扇の胸ぐらを掴み掛ろうとする。
だが、胸ぐらが掴まれることはなかった。
玉城が掴み掛ろうとするのとほぼ同時にカッと照明が光り、その先に男を照らし出したからである。

男は長身で白衣を纏っており、その髪は紫、肌は不健康そうに青白く、その金色に光る瞳が印象的であった。
ここにいる者が皆、この男が何かを知っていると感じた。
そして、その男の口が開かれる。
「おはよう、諸君。私の名はジェイル・スカリエッティ。君たちを集めたのは他ならぬ私だ。
少々頼みごとがあってね、手荒な真似をさせてもらったよ」
そこで彼は言葉を一端区切った。
「頼みごとっていったい何のことだ……?」
扇は嫌な予感をヒシヒシと感じながらも、スカリエッティの次の言葉を待つ。

「なに、簡単なことだよ。君たちには今から殺し合いをしてもらいたくてね」
その瞬間、空気が変わった。
多くの怒気、殺気がスカリエッティへと降り注がれる。
そして、それを一番分かりやすい形にして表した者がいた。
扇の隣にいた玉城である。
「てめぇ、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!!」
玉城は猛然とスカリエッティに襲い掛かり、その右拳を振るう。
それとは対照的にスカリエッティは余裕の笑みを崩さない。
そして玉城の拳がスカリエッティの顔に吸い込まれ、そのまま通り抜けた。

「はあ?」
間抜けな声をあげながら玉城はスカリエッティに振り返る。
そこには先ほどまでより、より愉快そうなスカリエッティの顔があった。
「フフッ、ホログラムというやつだよ。聞きなれない者のために言うなら幻影みたいなものさ。
つまり、本当の私は別の場所にいる。まあ、気配から気付いていた者もいるようだがね」

だが、玉城はなおもスカリエッティに食い掛かる。
「ここにいないのは分かったけどよぉ、はいそうですか、って簡単に殺し合いなんてすると思ってんのか!?
なめてんじゃねえぞ!」
「なめてなどいないさ。その証拠に。触ってごらん」
スカリエッティは首をなぞるような仕草をする。
それを不審に思いながらもつられて玉城も自分の首をなぞろうとした。
だが、そこにあったのは金属の感触。
「こ、これは!?」
「言わなくても分かるだろう?首輪さ。そして、それには爆弾を詰めさせてもらった」
「なんだと!?」

「つまり、君たちの命は私が握っているということだよ。こんな風にね」
そう言うとスカリエッティはパチンッと指を鳴らす。
それと同時にポシュっという乾いた音と共に玉城の首と胴体が離れた。
「玉城ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「フハハハハハハハハハハッハハハ!!」
辺りは騒然とし、今まで傍観者に徹していた扇の叫びが響きわたる。
だが、その声と同じくらいの大きさでスカリエッティも笑っていた。
扇は玉城の亡骸に縋り付き、そして泣くことしかできなかった。

「これで分かっただろう?私が本気だということを。
 そして、改めて宣言しよう。
君たちには殺し合いをしてもらう、と」
ここに、悪魔のゲームの開始が宣言された。

「では、ルール、つまり規則について説明しておこうか。
今から、君たちにはある場所に転移してもらう。ここではあまりに手狭なのでね。
そして、その地で君たちには最後の一組になるまで殺し合いをしてもらう。
それ以外は基本的に一切自由。協力するも裏切るも私は咎めはしない。
それと、こちらからは6時間ごとに『放送』を行う。
内容は、それまでの6時間の死者、禁止エリア、組を組めていない者の発表だ。
禁止エリアについては首輪と共に説明しよう。組に関しては少し待ちたまえ。

では、首輪に関してのルールだ。
無理やり首輪を外そうとした場合、禁止エリアに侵入した場合、組の最後の一人となり二回目の放送を迎えた場合、組の者が無理やり首輪を外そうとした場合、そして、24時間死者がでなかった場合は遠慮なく首輪を爆破させてもらう」
スカリエッティはさも愉快そうに笑いながら話を続ける。
不本意ながらも参加者になった者たちは耳を傾けるしかできなかった。

「今までの説明で疑問に思ったところがあったであろう。
それについて説明しよう。
まず、『最後の一組』という点だ。
最初、君たちには二人ないし三人で組を作ってもらっている。
つまり、こういうことさ。
初期の組み合わせは後で渡す名簿で分かるようにしているので安心したまえ。

次に、組における首輪の爆破について。
先ほど、組の最後の一人になって二度放送を迎えたら首輪を爆破させてもらうと言ったが、回避方法はちゃんとある。
それは、新たな組を作ることだ。
後に渡す地図に示した場所に機械を設置してある。そこで新たな相棒と共に機械の指示に従ってもらえば手続き完了だ。新たな組となる。
ちなみに組員の上限は三人までだ。四人以上で組むことは許されない。
また、二人組に一人追加して三人組にするというのもできない。
三人組を作りたかったら最初から組に属さない三人で来たまえ。
それと、中には自分の組に不満がある者もいるだろう。
その者もこの機械で手続きを行えば組を解消できる。
こちらの場合は相手の同意なく一人で出来るのが組を新たに作るのとの違いだ。
なお、組の最後の一人と認識されるのは放送からとさせてもらう。

だから、組を解消し相棒が見つからなくてもきっかり12時間後に首輪が爆破される訳ではない。
ああ、そうそう。組の創設は無制限だが、組の解消は12時間に一回まで。
それに、組を一度解散したものと再び組むことは禁止だ。そこはよく考えておくことだ。
最後に、殺し合いに必要なものはこちらで用意してもらった。君たちと共に転移させよう。武器の類は個々人によって違うので、そこは留意してくれたまえ」

「ドクター、もうそろそろです」
そこまで話したスカリエッティにある者が声をかける。
声だけがホログラム越し参加者のもとに届き、その姿は参加者には映し出されない。
「ウーノ、もうそんな時間か」
スカリエッティは自らの時計を確認する。
なるほど、いい頃合いだ。スカリエッティの口の端がさらに吊り上った。
「話は変わるが、諸君、この場においては念のため首輪のタイマーをいじらせてもらっている。
察しがいい者ならそれだけでこれから何が起こるか分かるだろう?」
確かにその報告からこれから起こる惨劇を察した者たちはいた。
だが、彼らは察すると同時にそれをどうすることも出来ないことにも気付いていた。

突如、ピーピーと警報機のような音が鳴る。
発信源は未だに玉城の躯に泣きついていた扇だ。
「こ、これは!?」
彼は玉城の死による動揺からルールをほとんど聞いていなかった。
ゆえに、今から自らに降りかかる悲劇が分からない。
「パートナー ガ イナイママ イッテイジカン タチマシタ。
クビワヲ バクハシマス」
その機械による音声で初めて扇は自分の立場を知った。
だが、時すでに遅し。玉城の時と同じように、ポシュッという音と共に扇の首が宙に舞った。

「このように今までの話は全て真実だ。では、ゲーム開始といこうか。
ルーテシア、頼むよ」
スカリエッティはまた別の名を呼ぶ。
それと同時に参加者の足元に魔方陣が浮かび上がった。

数秒後、そこには何もなかった。
扇と玉城、二人の死体を除いては。



ここはスカリエッティの研究室。
「参加者、全員の転移を確認。
 プログラムをスタートします」
抑揚のないウーノの声が部屋の主に届く。

「楽しそうですね、ドクター」
「ああ、楽しいとも。
 知的好奇心が満たされようとしている。いつになってもこの感覚は素晴らしい。
 いったい彼らはどう生き、どう死ぬのか。興味は尽きないよ」

ジェイル・スカリエッティによる狂気のプログラム、それが今スタートした。



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