第三話
世界有数の億万長者の一人娘を―――!
SPとかの厳重な警護を潜り抜けて―――!!
その上誰にも見つかる事無く誘拐する事が出来るのか―――!?
「まあ、今に始まったことじゃ無いがな」
非現実が具現化する女、それが三千院ナギである。
「しかしこりゃまたしっかりした作りの……今回のは結構大掛かりだなー。
準備に何億かはかかってるのかもなあ。
まーどっちにしろハヤテが助けに来てくれるんだろーけど」
しかも妙に場慣れしてる上に非現実な事態を受け入れる素養も十分。
さらには楽観的思考を可能にするチートお助けキャラも完備。
三千院ナギに死角はなかった。
「さて、と」
では、そんな三千院ナギがこのようにいきなり拉致監禁された場合、
一体どのような行動を取るのが一般的だろうか?
恐怖のあまり泣き叫ぶ?
脱出のための糸口を探る?
それとも自分を拉致した者に戦いを挑む?
「……動くのも面倒だし、とりあえずここでハヤテを待つか。さてと、P●Pでもするかなっと……」
――答え:引きこもる
元来がニート前回のブルジョワヒッキー。それが三千院ナギである。
ちょっとやそっとの事でその性根が変わるはずもない。
「む……P●Pが無いな……これは一大事だ、むむむ……」
まあP●Pが無いくらいで揺らぐ程度の性根だけどね♪
――ピー、ピー、ピー、
ゲーム中毒のお嬢様が獲物を探していた正にその時。
恰好の標的が自己アピールを開始した。
「むむ、これは!」
それは、いわばi-ph●neを一回り大きくしたような、PDFと呼ばれる類の電子機器だった。
その一見するとゲーム機に見紛う物体は、一瞬でナギの心を鷲掴み。
「なんと、これぞ渡りに船! 主人公のピンチに覚醒フラグ!!」
合ってるんだかいないんだかよく分からない比喩を叫びながら、ナギは獲物に飛びかかった。
その様たるや、正に飢えたライオンが子ウサギに襲いかかるが如し。
「うおおおお、ゲームコンテンツはないのか!? せめてテト●スかぷよ●よぐらい、M●S4までは望まないから……と?」
光速でPDF内を検索したおすライオンゲーマー(?)、ナギ。
だが残念なことながら、お目当てのゲームは全く見つからず、出てくるのはとあるゲームの説明文ばかり。
とはいえ、元来ニッチなゲーム好き+一応天才キャラのナギなので、なんとなく真面目に読んでしまう。
暫しの間、PDFを操作する音がだけが、部屋に響いた。
カチ、カチ、カチ……
「えーと……つまりは与えられたお題を達成すれば20億円、って体験特番ゲームってワケなんだな。
っても体動かすの苦手だし、20億とかはした金、別に要らないしなあ……」
そうぼやきながらも、ナギにはある気になる点が存在した。
ルールの端々に見える、『殺』『死』といった物騒な文言。
実際に今までも命を狙われるといった事が何度かあったが、
どのときもハヤテやマリアやその他大勢のSPが居たワケで……
『首輪が作動し着用者は死ぬ』『警備システムに殺される』
…(・д・|||)
「なんか物騒でヤだなあ……下手に動かずにじっとしといた方がよさそうだよなあ……」
カチ、カチ、カチ……
『A:クィーンのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない』
『3:3名以上の殺害。首輪の発動は含まない』
ΣΣ(´Д`)
「ちょ……人殺し目的のノルマもあるじゃないか……コレ、ちょっとヤバめなんじゃ……
特にQ:クイーンとか、人殺しに狙われるのがデフォになるのか?
って、このノルマってトランプの絵柄別なんだよな?
アレ? そう言えば……」
カチ、カチ、カチ……
PDFの画面を初期の待機画面に戻す。
そこに映し出された画像――或る一枚のトランプの画像、それは――
『 Q:クイーン 』
――Q:2日と23時間の生存――
キタ━━━(゚∀゚)━━( ゚∀)━━( )━━(∀゚ )━━(゚∀゚)━━━!!
「ちょ、ちょ、ちょ!!
何コレ、完全死亡フラグじゃん! 死ぬの前提じゃん私!!
放っておいても狙われちゃうよ私!!
しかもこれ、結構中核の役柄じゃん! 端っこで空気化して誤魔化せるってレベルじゃねーぞ!
ヤバい、これは何気にヤバいぞコレは!
ハヤテ、マリア、他誰でもいいから早く助けに――」
ガチャリ
「――――ッ!!」
その時。
テンパるナギをあざ笑うように、ドアを開く冷たい音が響く。
ギ・ギ・ギ……
ドアの軋む音が、とてもゆっくりと感じられる。
「は、ハヤテか? マリアか? そ、それとも、まさか――」
そのドアから姿を現したのは、果たして……
「おっ、人はっけん〜!」
「……女? てか、女子高生?」
現れたのは、何の変哲もなさそう(?)な一人の女子高生だった。
それも、低血圧なナギの苦手なテンション高め系である。
「えーと、私は、滝野 智! よろしくなちびっ子! 小学生か?」
「ち、ちび……! 貴様、いきなり言ってはならんことを……! それに私は高校生だ――!!」
「ちびっ子高校生……むむ、つまりは天才飛び級ちびっ子パートUだな!」
「大体合ってるけどなんかムカつく――!!」
そんなこんなで出会ったこの女。
話してみると、やっぱりなんの変哲もない(?)普通の女子高生だった。
この女も、いつの間にか拉致されたようで、気がつけばこの同じ場所だったらしい。
しかし金持ちのナギとは違い、この女には拉致される謂われは特に無さそうに見える。
巻き添えか何かなのだろうか? それともこの女にも秘められた何かが?
「なあ、ところでさあ」
雑談を交わすうち、何気に智(この女は“とも”と呼ばれているらしい)が話かけてきた。
何時の間にやら、やたらと馴れ馴れしくなっている。
「コレ、何かのゲームで、頑張ったら20億とか貰えるんだろ!?」
「あー、まあそうみたいだけど、お前信じるのか?」
「だって20億だぜ、20億! ダメもとでもやってみる価値あるんじゃないのか!?」
「まあ、そうなのかもなあ。私は別にどうでもいいけど……」
正直やる気のないナギを余所に、勝手にテンションを上げていく智。
ぶっちゃけ温度差を感じる。
「じゃあ、まあ、20億のためってことで」
そんなたわいのない会話の流れのままに、智が喚く。
「賞金獲得のためだ! 覚悟――!」
「は、はぁ!?」
間髪入れず、いきなり智がナギに飛びかかる!
辛うじて身を躱すナギだが、智はなおナギに狙いをさだめ、にじり寄る。
「おま、何すんだ! 大体まだ攻撃禁止時間――」
「問答無用――! ビバ、20億――――!!!」
そして智がナギに襲いかかった。
その様、まさに女豹の如し!
「ぎ、ぎゃ――――!」
「わはは、まて――――!!」
逃げるナギ。
その様まさに脱兎の如し!
和やかなんだか真面目なんだかよく分からない追いかけっこが今、始まったのだった!
つか、コレってほっとけば智にペナルティ発動すんじゃね?
【三千院ナギ @ ハヤテのごとく! 生存 残り72:30 】
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