無題
「まったく……人間の作った物は相変わらず脆いな」
崩れた船の鉄骨の下から、一人の中年男が出てくる。
威厳に溢れたその姿は、一見王族の人間にも感じられる。
しかし実際はそれよりも遥か高み。
それこそ、人間如きが一生懸けても辿り着くことができない場所にその男はいた。
海洋を司る神ポセイドン。
ギリシア神話にその名を連ねる神の一人ポセイドンは、何の因果か人間の主催した豪華客船の旅に興味本位で出席した挙句、
原因不明の転覆事故に巻き込まれてしまっていた。
>>俺。説明口調乙。
それはさておき、ポセイドンは困ったように首を傾げる。
「ふむ……本来ならさっさと宮殿に戻るべきなのだが、トライデントを部屋に置き去りにしてしまったな」
ポセイドンが武器として使用したと言われる、三叉の矛トライデント。
地を撃てば塩水の泉を湧かせることも可能な神の武器を、ポセイドンは部屋に置いたままにしていた。
「あれが人の手に渡ることだけは避けたい。一刻も早く回収しなくては」
とりあえずの行動方針を決めて、ポセイドンは船の自室に向かって歩き出そうとしてすぐにその足を止めた。
「……誰かいるのか」
脅すような口調でポセイドンは声を発する。
視線の先には、僅かに開いた客室の扉。
ポセイドンはそこから感じた生き物の気配を察知して声をかけた。
「にゃーん」
間の抜けた鳴き声と共に、扉の隙間から一匹の白猫が出てきた。
白猫はしばらくの間ボーっとしていたが、ポセイドンの姿を見た途端驚いたように何処へと走り去ってしまった。
白猫の首輪に付いている鈴の音だけが、虚しく船内に響いた。
「猫……? 船内にペットを連れ込んでいたのか?」
非常識な客もいるものだ。
そう言おうとして、ポセイドンは口を閉ざす。
今はそんな戯言を考えている場合ではない。
人間の手にトライデントが渡ってしまう前にそれを回収しなくてならない。
近くに他の生存者がいないことを確認してから、ポセイドンは今度こそ自室に向かって歩き出した。
走り去った白猫の後を追いかけるように。
【12時/エコノミークラス客室前の廊下】
【ポセイドン@ギリシア神話】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持品]:なし
[行動方針]:
1:自室に戻り、トライデントを回収する。
2:そのあと船を脱出して宮殿に戻る。
3:一応生存者を探すが、どうするかは考えていない。
[備考]:特になし
【タマ@サザエさん】
[状態]:健康
[装備]:鈴付き首輪
[所持品]:なし
[行動方針]:
1:ポセイドンの神のオーラに恐怖。
2:サザエさん一家を探す。
[備考]:ポセイドンの進行方向に走っています。
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