激突する閃光






「――テックセッタァァァ―――ッ!!!」
 稲妻のごとき怒号と共に、真紅の光がほとばしる。
 それは灼熱よりも熱く、鮮血よりもおぞましく。
 叫びと共に光を放ち、内へと消えた少年の影が、異形のシルエットへと変貌していく。
 その四肢は唸りを上げて肥大し、全身には禍々しい棘が生える。
「何だ、その姿は……」
 地獄の業火を引き裂いて、街の大通りに立つのは黒き悪鬼だ。
 顕現する羅刹の姿を見上げ、毒島冴子は驚愕と共に、ただそれだけを呟いた。
「いやぁ、助かったよ毒島冴子。まさか君の支給品の中に、取り上げられたクリスタルが入っていたとはね」
 漆黒と紅の鎧甲を、白い月光に光らせて。
 くつくつとせせら笑いながら、鬼は少女へと言い放つ。
 相羽シンヤと名乗ったこの男は、出会ってからつい先ほどまでは、ごく普通の少年のはずだった。
 それが決定的な変化を見せたのは、互いの持ち物を確認しようと、デイパックの中身を見せた時だった。
 中に入っていた、赤く光る結晶を見せた時、突如シンヤの目の色が変わり、それを強引にひったくったのだ。
「君は一体……!」
 デイパックの中に入っていた、カラフルな装飾の施された棍棒を構える。
 『奴ら』とはまるで異なる異形だ。
 映画でよく見るような腐食した身体と、全身を装甲で覆ったその姿とは、根本から異なる存在であることが伺える。
 であれば、未知の存在だ。
 そしてその滲み出る気配からして、凄まじい戦闘能力を持っているであろうことは、容易に想像することができた。
「ふん!」
「くッ……!」
 ぶん、とシンヤが腕を振るう。
 丸太で殴りつけられたような衝撃が、棍棒を伝って腕を襲う。
 たまらず冴子は棍棒を弾かれ、得物を宙へと舞わせてしまった。
「俺はラダムのテッカマンエビル。お前達地球人を狩る者だ」
「テッカマン、だと……!?」
「くく、今時そんなことも知らないとはな……まぁいいだろう」
 言いながら、シンヤの右手が振り上げられる。
 その手に高々と掲げるものは、銀色に煌めく双刃の槍だ。
 柄と穂先が一体化した、剣呑なランサーの輝きが、冴子の瞳を鉄色に染める。
「死に逝く者には関係ないことだ……っ!」
 漆黒の魔手が力に震え。
 殺意を孕んだ刃が揺れる。
 筋肉の躍動が腕を動かし、槍を振り降ろさせた瞬間。

「―――ッ!」

 不意に横合いから衝撃が襲い、冴子の身体を急加速させた。
「なっ!?」
 遅れて、ばごん、と音が聞こえる。テッカマンエビルのランサーが、足元のアスファルトを砕いた音だ。
 その破壊力も目を見張るものがあったが、今は深く気にしていられない。
 それよりも気になるのは自分の現状。
 突然飛び込んできた何者かが、自分を抱えて飛び退ったという現状だ。
「ほう……?」
 ざ――っと地を滑る音と共に、その何者かが着地する。
 無造作に冴子を放り出したのは、色素の薄い髪の少年だ。
 おおよそ中学生くらいだろうか。少し背が高く感じるが、高校生の自分達よりも、少し幼い顔立ちをしている。
 整った睫毛の下の瞳は、涼やかな光を放っている。美少年、と呼んで差し支えない、端整な容姿をした男だった。

「すまない、助かった。だが君は――」
「下がっていろ」
 ぶっきらぼうに告げる声。
 6文字の言葉と共に広げた手が、隣に立とうとする冴子を制止する。
「っ……」
 一瞬、冴子は言葉に詰まった。
 無礼な口ぶりが原因ではない。彼のその態度に、引っかかるものがあったからだ。
 共に学園を脱出した後輩、小室孝――全く似ていないはずの男の面影が、何故か白髪の男にダブる。
 低く威圧するような声色に、果敢で快活な声音が重なる。
「お前は邪魔だ。奴との決着は僕がつける」
 そう続けられた声に、はっと冴子は我に返った。
「しかし! あれは明らかに普通の人間ではない! 君だけを残していくわけには……!」
「その通りだ。随分と嘗めてくれるじゃないか」
 少年を制止する冴子の声と、やや苛立ったシンヤの声が重なる。
 砕いた道路を踏み越えて、テッカマンエビルが歩み寄ってくる。
 今や凶器と共に過ごすようになった冴子には、その異常さが理解できた。
 槍が特別硬いだけでは、あんな破砕痕などできはしない。であれば、あれは筋力にも裏打ちされた力だ。
 一撃でアスファルトを陥没させるなど、並の人間にはできるはずもない。
 それをいくら男だからとて、まともに相手に出来るはずがなかろうが。
 本当に自分が足手まといだとしても、止めずに逃げ去るわけにはいかないだろうが。
「――ヒーラ・マスティーア!」
 その時だ。
 少年の発した声と共に、眩い閃光が溢れたのは。
「!?」
「これは……!」
 視界が一瞬にして白く染まる。
 違う、明るくなったのだ。
 宵闇を切り裂くかのように、その手から放たれた雷が、ビルの谷間を照らしていたのだ。
 稲妻は荒ぶる大蛇のごとく、漆黒の鎧甲へと殺到する。
 雷撃の牙が喰らいつき、火花を散らしてのたうち回る。
「ええいっ!」
 絡みつく白銀の大蛇達を、シンヤの剛腕が振り払った。
 直後に彼を襲ったのは、右ストレートの衝撃だ。
 一瞬で間合いを詰めた少年が、テッカマンエビル目掛けて殴りかかったのだ。
 咄嗟にシンヤは左手を出し、少年の拳を受け止めはしたが、ぶつかり合うパワーは拮抗している。
 その電撃も、踏み込みの速さも、明らかに人間の技ではない。
 何なのだ、この少年は。
 シンヤが人外の魔物であるなら、まるで漫画のヒーローのようだ。
 色素の薄い髪を揺らす、奇妙な少年の力もまた、人間の領域を超えている。
「早く行け!」
 突き刺さる声に、我に返る。
 肩越しに視線を向けた少年が、冴子へと再度撤退を示唆する。
「っ……ああ!」
 どうやら自分が邪魔だと言うのは、本当のことだったらしい。
 戦う力があるのなら、非戦闘要員を庇いながらよりも、1人で存分に動きまわる方が得策だ。
 ちょうど足元に転がっていた棍棒を、拾ってデイパックへとしまい直す。
「だが、くれぐれも無茶はするなよ! お互い若い命だ、大切にしてくれ!」
 最後にそれだけを告げて、冴子は大通りを離れ、路地裏へと走り去っていった。



「トニトルイ・サルターン!」
 火花を散らす電光が、闇の町並みに軌跡を描く。
 右手から放つ光の弾が、漆黒の鎧目掛けて殺到する。
「ふん!」
 気合いと共に振るうのは豪槍。
 びゅん――と空を斬る魔人の槍が、雷撃の弾丸を両断する。
 それだけではない。突っ込んできた。
 突撃と迎撃を同時にこなし、飛翔する黒と赤の鎧が、こちらへ槍を突き立てに来たのだ。
「ッ!」
 全く、何をやっているんだ――オリオン星座の聖闘士(セイント)・エデンは思う。
 大地を砕く衝撃を、飛び退って回避しながら、滑稽な現状を自嘲する。
 赤の他人を庇うなど、他人に興味のない自分には、あまりにもらしくない行動だ。
 あんな女も、目の前の魔人も、全て無視して通り過ぎれば、無駄に戦うこともなかったというのに。
「ちぇあっ!」
 ぎゅん、と風が唸りを上げた。
 鎧が持っていた槍を、こちらに向けて投げてきたのだ。
「フォルゴーレ・ルネッサンスッ!」
 ビルの壁面をキックし、左手に雷の小宇宙(コスモ)を込める。
 人間の内側に蓄えられた、神秘的な宇宙の力。
 雷電を孕んだ己の小宇宙を、瞬時にかつ最大限に高め、左手を稲光りで包む。
 鉄色に光る槍が殺到。
 これを左腕でなぎ払い、回避。
 そしてその奥からは魔人が迫る。肥大した両手から刃を伸ばし、それらをクロスさせて襲ってくる。
「はぁああああッ!」
 強引に左腕に力を込め、迫る凶刃を迎え撃った。
 剣と雷がぶつかり合い、激しいスパークを炸裂させた。
「やるじゃないか! だが、所詮生身の人間のお前に、テッカマンの俺が倒せるかな!?」
 弾ける光の向こうには、随分と肩鎧の小さくなった、黒いテッカマンの姿がある。
 恐らく腕を大きくしているのは、あの肩パーツだったのだろう。
 外側のパーツを分離させて、両腕に装着したのがこの刃なのだ。
「っ……!」
 とはいえ、そんなことはどうでもいい。
 それ以上に気になるのは、己自身の余力の方だ。
 力任せに刃を払い、すぐ足元へと着地する。
 額に浮かんだ汗が弾け、アスファルトに黒い斑点を作った。
 本来聖闘士の戦いは、聖衣(クロス)を纏って行うものだ。
 単純な防御力だけでなく、小宇宙の出力すら左右するそれは、ただならぬ影響力を持っている。
 要するにエデンは、聖衣を持たない現状のままでは、全力を出し切ることができないのだ。
 身体に溜めこんだ負担やダメージは、無視できない領域に到達しつつある。
 これ以上戦闘が長引けば、こちらの不利は否めない。
 次の一撃で奴を倒し、戦闘を早々に切り上げること――この魔人に勝利する手段は、恐らくはそれ1つしかあるまい。
「フッ!」
 宙に浮くテッカマンの手から、輝く鋼線が放たれた。
 先ほどまでの戦闘中にも、何度か使っていたものだ。恐らくは投げたランサーに巻きつけ、回収するために放ったのだろう。
 であれば、利用しない手はない。
 エデンは素早く飛び上がると、ワイヤーに目掛けて突っ込んだ。
「何!?」
「でぇぇぇやぁぁぁぁぁッ!!」
 目的は魔人の鋼線を掴み、地面へ引きずり落とすことだ。
 小宇宙を込めた両手を伸ばし、ワイヤーを勢いよく掴む。
 そのまま両腕に力を込め、思いっきり鎧を叩き落とす。
 こうすることは予想していなかったようだ。テッカマンは面白いぐらいに、綺麗にアスファルトへと叩き落とされた。

「ォオオオオオオ……ッ!」
 己の内なる小宇宙を燃やす。
 この機を決して逃さぬようにと、持てる力の全てを引き出す。
 精神の射程を爆発させて、己の内側に大宇宙を認識。
 究極の感覚・セブンセンシズ――その研ぎ澄まされた意識のままに、宇宙の力を燃焼させる。
「面白い! それがお前のとっておきというわけか!」
 身体から湧き上がるエネルギーを、鋭敏に感じ取ったのだろう。
 立ち込める土煙の向こうから、魔人の好奇の声が上がる。
 同時に向こうからも伝わってきたのは、爆発的なエネルギーの気配だ。
 小宇宙ではない。だが、確かな破壊力を持った力が、急速にチャージされるのを感じる。
 それは余裕か、闘争への歓喜か。
 恐らくはあのテッカマンとやらも、持てる最大の力をぶつけ、正面から打ち破るつもりでいるのだろう。
 そうであるなら都合がいい。
 攻撃の射程外まで逃げられるよりは、そこに立ち止まってくれた方がいい。
「轟け、僕の小宇宙ッ……!!」
 らしくない行動だとは思った。
 見ず知らずの他人を助け、そのために自分が傷ついて、挙げ句命の危険に晒されるなど、非効率にも程があった。
 それでも、何となくではあるが、分からないでもないとは思った。
 あの忌まわしき十二宮で、エデンは最愛の女性へと誓った。
 喪う後悔を繰り返しはしないと。
 途絶えてしまった彼女の理想を、この手に受け継いで進んでみせると。
(アリアの世界は――僕が守るッ!)
 アリア。
 新世界の神となることを、狂気の父に押しつけられた少女。
 光溢れる世界を夢見て、父の野望に反旗を翻し、そして散っていった少女。
 彼女の命が燃え尽きる時、自分には何もできなかった。
 彼女を見殺しにしたことが、オリオン星座のエデンの後悔だった。
 なればこそ、エデンは思うのだ。
 アリアを喪った苦しみを、二度と繰り返したくはないと。
 アリアの夢見た平和な世界を、生きている自分が守ってみせると。
 たとえばあの黒髪の女も、アリアならば守ろうとしたはずだ。
 助けを求める人の手を、見捨てて手離してしまう世界など、アリアの望むところではないのだ。
 なればこそ、戦おう。
 平和を脅かす主催者とも、その甘言に乗った魔人とも。
 世界を穢す闇を消し去り、光溢れる平和な世界を、この雷で守り抜いてみせよう。

「オリオンズ――デヴァステェェェションッ!!!」

 轟雷を纏うその左手で、足元の地面を殴り砕いた。
 迸る紫電が解放され、一挙にその力を爆発させた。
 オリオン星座の最大奥義――その名も、オリオンズ・デヴァステーション。
 拳を基点に雷撃を放ち、溢れんばかりの破壊力を、周囲へと解き放つ必殺技である。

「ボル――テッカァァァァァッ!!!」

 雷電の向こうより襲い来るのは、絶叫と衝突による衝撃波だ。
 テッカマンの反撃は強い。
 あまりに凄まじすぎる激突ゆえに、その全容はよく見えないが、威力は想像よりも遥かに高い。
 少しでも気遅れしようものなら、一挙に押し返されてしまいそうだ。
「ぬおおォォォォ―――ッ!!」
「はああァァァァ―――ッ!!」
 負けるものかと声を張った。
 大地が沈まんばかりに踏み込み、更なる力を拳に込めた。
 ばちばちと響く衝突音の奥から、鈍い破砕の音が聞こえる。
 ビルをもなぎ倒す衝撃波の中、自らをただ一個の破壊係数へと変え、敵を滅ぼさんと轟き叫ぶ。
 絶対に負けるわけにはいかない。
 こんなところで倒れたりはしない。
 自分にはあの「視聴者」なる者を叩き潰して、帰らなければならない場所があるのだ。
 この身と命が続く限り、持てる全ての想いを込めて、守らなければならない世界があるのだ。
 だから轟け、我が小宇宙よ。
 目の前に立ちはだかる闇を祓い、世界を光で灯す力を――このオリオン座のエデンに授けてみせよ!
「ェエエエエヤァアアアアアアアアア――――――ッッ!!!」
 雄叫びと共に放たれる力は、広がる闇を塗り潰し、世界を白一色へと染め上げた。



 物凄い音と共に見えたのは、真昼のような光だった。
 毒島冴子の振り返った先では、凄まじいばかりの光量が、ビルの隙間から漏れ出していた。
 『奴ら』が溢れかえる前の社会ですらも、あれほどの光を放つネオンは、さすがに目にしたことがない。
 恐らくは、孝を思わせるあの少年が、シンヤとの戦いで起こした光だろう。
 全くもって馬鹿げた現象だ。あの中心にいる少年は、本当に無事なのだろうか。
(まあ、無事であるなら戻ってくるはずだ……下手に邪魔をしてしまうのはまずかろう)
 それでも冴子は、敢えてその場に座し、性急な行動を起こそうとはしなかった。
 要するに、冴子は場違いなのだ。
 街を『奴ら』に呑まれて以来、常在戦場の身となった己には、無力な人間の介入が、どれほどの罪であるかがよく分かる。
 自分とて、幼い希里ありすが前線に立とうとしようものなら、恐らくいい顔はしないだろう。
(あれほどの戦闘が起こるような環境だ。やはりここは、他の人間と合流し、協力関係を結ぶことが急務だろう)
 元々毒島冴子は、この殺し合いに乗るつもりはなかった。
 同じ志を持つ者と力を合わせ、このフィールドから脱出し、「視聴者」の喉笛に喰らいつく気でいた。
 そのプランは今も変わらない。むしろ現実を目の当たりにして、その重要性を再認識した。
 もしもシンヤのような敵が、他にもこの場にいるとするなら、単独で迎え撃つことは不可能だ。
 少しでも倒せる確率を上げるためにも、力を一点に集中し、対策を練る必要があるだろう。
(倒す……そう、敵を倒すためにも)
 そこまで考えかけたところで。
(……やはりいけないな、私は)
 微かに自分の口角が、緩んでしまっていることに気付いた。
 三日月を作る唇を、細い右手の指でなぞる。
 つい昨日まで忘れていた、あの衝動が湧き上がった証だ。
 たとえばあのテッカマンエビルが、変身していない無防備な時に、この棍棒で殴っていたらどうなっただろう。
 圧倒的に優位なはずの相手に対して、全く抵抗もできないままに殴られるシンヤは、どんな顔をしているのだろう。
 見下すべき弱者に踏みにじられることへの屈辱か?
 力を取り上げられ蹂躙されることに対する恐怖か?
 心のどこかで、どうしても、そう考えてしまう自分がいるのだ。
 左手に握るこの凶器で、誰かを傷つけたいと思う衝動が、確かに心の中にあるのだ。
(殺し合いには乗りたくない……本当に、乗りたくないとは思うのだが)
 果たして理性の描く願いは、本能が求める衝動に、抗うことができるのだろうか。
 殺し合いには乗りたくないと、そう願い続けることができるのだろうか。
 胸にこみ上げる不安が、いつか好奇に飲まれるのでは――今の毒島冴子にとっては、それが何よりの気がかりだった。


【1日目/深夜/D-2東端】
【毒島冴子/沢城みゆき@学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD】
【状態】不安と微かな好奇
【所持品】基本支給品一式、魔法のバット、ランダム支給品0〜1
【思考】
基本:殺し合いを止めたい
1:他の参加者を探して協力し合う
2:少年(=エデン)の無事も確認しておきたい
3:「他人を傷つけたい」という欲求に抗えるだろうか……?
【備考】
※アニメ第9話「The swoad and DEAD」にて、神社に入る直前からの参戦です
※エデンの声に、小室孝@学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEADの面影を感じました。
 それが声から感じたものであることには、まだ気付いていません

【魔法のバット@魔法少女まどか☆マギカ】
美樹さやかの持参した金属バットを、巴マミが魔法で変化させたもの。
市販の金属バットよりも、強度や打撃力が強化されている。



「……存外、やるじゃないか」
 黒い長髪を闇になびかせ、相羽シンヤはぽつりと呟く。
 おびただしい破壊痕の中心に、冷酷な眼差しを伴って立つ。
 先ほどまで戦ったあの少年は、なかなかに厄介な敵だった。
 何せテッカマンの最大奥義――ボルテッカを使わせるほどの相手だ。
 おかげで殺し合いの頭から、随分と体力を使ってしまった。
 疲労が回復するまでの間は、派手な戦闘は避けた方がいいだろう。
(並の人間なら殺せる自信はあるが……)
 シンヤ自身、格闘の心得はある。
 今は亡きテッカマンアックスが、人間・ゴダードであった頃に、彼から多くの技を学んでいる。
 素人が相手であるならば、テッカマンに変身せずとも、簡単に倒すこともできるだろう。
 とはいえ、あの少年のような人間が、他にもいる可能性もあり得る。対応は慎重にした方がよさそうだ。
(少なくともあの女……毒島冴子に関しては、それほどの脅威とは思えなかった)
 であれば、狙うべきは毒島冴子だ。
 彼女はテッカマンエビルの力を前に、明らかに尻ごみしていたように見えた。
 彼女には白髪の少年のような、超常的な力はない。であれば、疲弊した今であっても、十分に対処できる相手だ。
 時間からして、そう遠くには逃げていないだろう。
 なれば、追い付ける距離の獲物から、ここは確実に仕留めさせてもらう。
「じゃあね。それなりには楽しめたよ」
 荒廃した瓦礫の山へと告げる。
 必殺のボルテッカをその身に浴びて、消し墨となって闇へと溶けた、雷の少年へと別れを告げる。
 ボルテッカと真っ向からぶつかり合い、あまつさえいくらかの傷を与えた相手など、テッカマン以外では初めてだった。
 僅かばかりにシンヤに残った、人間としてのスポーツマンシップが、強敵への敬意を示させたのかもしれない。
「そして待っててね……兄さん」
 くく、と笑いを漏らしながら、シンヤは西へと歩みを進めた。
 彼が心より求めるものは、双子の兄弟・相羽タカヤ――テッカマンブレードとの決着だ。
 更なる力を身につけて、己を踏み越えていったあの男は、何としても倒さねばならない。
 こんなところで時間を潰していては、ブラスター化の副作用とやらで、勝手に死なれてしまうかもしれないのだ。
 色々想定外の事態はあったが、変身用のテッククリスタルが、さっそく手に入ったのは幸先がよかった。
 この力で参加者を皆殺しにし、このゲームの優勝者として君臨する。
 そうやってゲームを終わらせて、さっさとこのフィールドを離脱し、ラダムの基地へと帰還する。
 そしてテッカマンオメガがひた隠しにした、ブラスター化のための秘術を、今度こそ我が身にかけるのだ。
 兄との決着を邪魔する者は、たとえ何者であろうと容赦はしない。
 暗い殺意を胸に秘め、さながら飢えた狼のように、シンヤはコンクリートジャングルを進んでいった。



【エデン/諏訪部順一@聖闘士星矢Ω 死亡】
【残り76人】




【1日目/深夜/D-3】
【相羽シンヤ/子安武人@宇宙の騎士テッカマンブレード】
【状態】疲労(大)、全身にダメージ(小)
【所持品】基本支給品一式、テッククリスタル(エビル)、ランダム支給品0〜3
【思考】
基本:殺し合いに優勝して、月の基地へと帰還する
1:毒島冴子を追いかけて殺す
【備考】
※第42話「激突! 赤い宿敵」終了直後からの参戦です
※変身や能力の制限などは、後続の書き手さんにお任せします

※D-3市街地にて、大規模な破壊現象が発生しました。周囲に音が聞こえているかもしれません

【テッククリスタル(エビル)@宇宙の騎士テッカマンブレード】
ラダムの寄生した生物兵器・テッカマンへと変身するためのアイテム。
これは相羽シンヤが、テッカマンエビルへと変身するためのもの。



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