無題
アンジェは激怒していた
なぜ名無しの勝手な都合で殺し合わねばならないのか?
必ずこの腐ったBRとやらを叩き潰す
しかし今は隠れなければならない…
その背後をずっと追っている男がいた、その男の名はアダルト
出席番号一番のアダルトは、校舎を出たあと、次に出てきたアンジェに気付かれぬよう、そっと後を追っていた
(しめた!アンジェの野郎気付いてねーぜ)
しかも木陰に入って行く。
獲物の姿を見失うリスクもあるが、こちらの姿も隠せる。
尾行に気付いていないアンジェは無防備であり、アダルトの有利だ。
彼はポケットの中で拳をギュッとやった。
握り締めたのは一ヶ月前に手に入れたナイフだ。
持ち歩いていて良かったぜ。
彼はアンジェの背後に音も無く寄った。
1、
2、
3。
…ドスッ。
ここは校舎を出てしばらく歩いた辺りにある雑木林。
木々は黒々と生い茂り、大地は黒々と血を流す。
男だ。
一人の男子学生が倒れている。
彼の名は
アダルト「現実はこんなもんさ、お兄さん」アダルト(さて‥次の獲物を探すか‥)
アダルトは歩く、只、獲物を求めて(邪魔な石ころどけただけさ‥俺は俺を肯定する)
戦々恐々校舎から顔を覗かせた女生徒がいる、うんぴだ。
まずは下駄箱の陰から外を窺い、バッグの中から取り出した支給品を握り締める。
武器と呼ぶにはあまりにお粗末な品も、今のうんぴにとって貴重な拠り所だった。
校舎の外は月明かりだけの闇、絡み付く様な闇、得体の知れない闇。
意を決して外に出られたのは、気弱な彼女にとっては及第点だろう。
何かおぞましいものの潜む気配に耐えながら歩を進める。
いつも輪の中にいたうんぴにとって、最も恐れるべきは孤独だった。
忠誠と引き換えに与えられていた安心と安住、誰かの傘の下にいる安堵感。
彼女にとって掛け替えのないぬるま湯の様な環境は、
一夜の変事によって逆転してしまったのだった。
(煙草…)
無意識にポケットに手が伸びるが、
夜の闇に煙草の火は目立つ事を考えてやめた。
葉の擦れる音に一々怯えながら道なりに進むと、やがて小さな雑木林に行き当った。
雑木林の奥に二人の人影を発見して、
うんぴは汗で滑りそうになった得物を握り直した。
慌ててそばにあった木の陰に身を潜め、片目だけを覗かせる。
同じような体格の2つの影。
片方の影が手を振り上げると、
もう一方の影はあっけなく地に伏した。
残った影がそそくさと立ち去るのを確かめてから、
うんぴは恐る恐る倒れた影に近寄った。
倒れた人物の右肩が黒く染まっているのを見て流石に足が竦んだが、
数少ない勇気を振り絞ってうんぴは屈み込んだ。
うつ伏せで顔こそ分からなかったが、髪型には見覚えがあった。
いつもクラスの中心にいた男。そしてうんぴに居場所を提供してくれた友人達のひとり。
その名を呼ぼうとして、彼の背中が微かに上下している事に気付いたうんぴは、
思わずそれまで手に握り続けていたバターナイフを取り落とした。
「アンジェ!」
男の名を口にしながら、力無い体を抱え起こす。
アンジェの目に意思の光が戻るのを感じて、うんぴは久方振りの安堵感を得ていた。
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