映画ってやっぱ良いよね







「映画って本当に良いものですよね」

ひとりの紳士が軽い口調で話す。
ここは映画館。数々の名作が上映され、ささやかな夢と手に汗握る幻想を体感していく場所。
観客が一人もいない中、スクリーンには最近封切りされたアクション映画が上映されていた。
その中の最前列の席……ではなく、近くもなく遠くでもなく、快適に映画を鑑賞できる位置に有する席に座るその男。
映画鑑賞の玄人であるその紳士は、頭部がカメラで出来ていた。

「同感ですよ。映画は人類史上最高の文化だ」

映画館の礼装、特大のポップコーンと冷たいドリンクを装備した青年が、熱くその問いに返す。
まだ若い筈なのに額が警報を鳴らしているこの青年。名を村内という。
大学の映画サークルに加入し、数え切れないほどの映画を見漁った映画中毒者(ムービージャンキー)。

「……」
「……」

短い応答もなしに、二人は押し黙ってスクリーンを凝視する。
映画の上映中に、私語は映画への侮辱だと心得ているのだ。
中々に見る目の肥えたふたりでも、十分に楽しめる映画だ。
主人公と敵組織の激しい銃撃戦。そこらかしこが爆発している。
悲惨な過去を背負った主人公に共感する。
外道だがどこか憎めない悪役。
主人公をサポートする美しいヒロイン。
映画を見るのが楽しすぎて、ここが殺し合いの場だということを、思わず忘れてしまいそうだ。
いや、事実ふたりはそれを忘れていた。
顔見知りの友人という仲なら分かる。
だが、ふたりは当然ながら初対面。
村内に頭がカメラな紳士の知り合いはおらず、紳士もハゲかけた大学生の友人はいない。
殺しを強制されるなか、まったくの赤の他人同士が、こんな無防備に映画を見るなど異常なことだ。
だが問題ない。
このふたりの間には、奇妙な信頼関係が築かれていた。
言葉よりも雄弁に、それは互いを意識させた。
外見も何もかもまったく異なる二人に、唯一共通すること。
それは映画への愛。
お互い映画を愛してやまない強い心が、二人の信頼そのものだった。
映画が好きな人間に悪い人はいない、そんな、ほぼ同類故の仲間意識。
村内は殺し合いに乗り気ではない。
誘惑はあった。生還でもなく、優勝商品の願いにではないが。
彼は数え切れないほどの見てきた映画の主人公のような『主役(ヒーロー)』になりたかった。
ゆえに選択は対主催。命欲しさに殺し合いに乗るような奴は映画では対して活躍できずにすぐ死ぬ。そう考えたためだ。
映画を楽しみながらも、頭の済ではいかにヒーローになるか計算している。
協力者を得るのも良し、首輪の解除を模索するのも良し。手段は無限大だ。


「……」
「……」

ポップコーンをむしゃむしゃ食べる音がなる。
喉の乾きをドリンクで潤す。
ふたりは黙々と映画を見続けた。

――ひとつ、村内には誤解がある。
彼の隣に座る紳士が、映画好きとはいえ必ずしも善に属する存在ではないことを。
彼の名前はスマホの名簿にはこう記されている、『盗撮男』と。
それは彼の便宜上の名、最も有名な通り名は……

『映画どろぼう』

彼のカメラの餌食になった映画は数しれず。あらゆる新作を盗撮する彼は間違いなく悪人。

(村内くん。申し訳ありませんが……ワタクシ、映画をただ見るよりも盗(撮・録)るのが大好きなんですよね――)

内心そう思っているのは秘密だ。

【6―G映画館/一日目・深夜】

【村内@ハカイジュウ】
【状態】健康
【装備】ポップコーンとドリンク
【道具】基本支給品、不明支給品三つ
【思考】基本:対主催
T:僕は主役だ。いや、主役になる。
2:勿体無いんで映画を見終えてから行動する 
3:"ちょっと"怪しい人物だが盗撮男と行動を共にする
【備考】
※映画館に立て籠もっていた時期からの参戦。
※盗撮男の顔を被り物だと認識しており、彼とはまだ詳しい情報交換などはしていません。

【盗撮男@ゆるキャラ?】
【状態】健康
【装備】
【道具】基本支給品、不明支給品三つ
【思考】基本:???
T:映画を見終えてから行動する。そして盗撮しておく
【備考】
録画機能に制限はありません。

【ポップコーン&ドリンク】
映画を見る際のもっとも基本的な礼装。ふたつともLサイズ。支給品ではなく現地調達。



(村内くん。申し訳ありませんが……ワタクシ、映画をただ見るよりも盗(撮・録)るのが大好きなんですよね――)

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