ストーカーは悪です
「あああああああっ!死ねっ!」
街の中で割と早くに争いが起こる。
喚き散らす怒声。それとともに人外の一撃が振るわれる。
「くっ!……貴様、何を…」
殺すために振り下ろされた剣を受け止めるのは、槍ではなくフライパンを手に持ったイケメン、もとい聖杯を競い合うために現世に召喚された英霊の一人、ディルムッド・オディナ。別名ランサー。
すかさず攻撃をいなし、支給品であるフライパンを構える。
だがそれにあまり意味はない。
先ほど受け止めた一撃で、彼のフライパンはボロボロになっていた。
「ぐぎぎぎぎぎ」
ランサーを襲った襲撃者は、体中にサイボーグのような装甲を纏った男だった。
右手は肘から先が切断され、巨大な剣が移植されている。
唯一露出した顔面には、巨大な昆虫がへばりつき、醜く蠢いていた。
ランサーは顔を顰めた。だが警戒は怠らない。
先ほど受けた斬撃は、明らかに人の範疇では無い。
気配から見るにサーヴァントでは無いようだが、敵であるのは確かだ。
「……不意打ちで俺を討ち取ろうとは、舐められたものだ」
痛いくらいの殺気を向けてくる怪物に、ランサーは挑発するような笑みを浮かべる。
だが、一筋の冷や汗が流れる。
今のランサーはかなりのピンチだった。
武器と呼べるのは今握っているフライパンだけ。
しかしそれも既に破損している
頼みの綱の支給品。それが入ったデイバッグは、先ほど敵の後方に吹き飛ばされた。
人智を超えたサーヴァントとしても、宝具が無い状態で、マスターによる支援も無し。
それに加えて敵がサーヴァント並みの怪物とくれば、最悪の一言以外に状況を示す言葉は無し。
「ふー、ふー……私と…私と白崎くんの再会を脅かす者は……誰であろうと…皆殺しだァァァァ!!」
咆哮とともに、手を出しあぐねていたランサーを引き裂こうと飛びかかる。
ランサーは満足に武器がない状態でも、サーヴァントの高い動体視力と運動能力をフルに活用し、力任せに振るわれる斬撃をいなす。
だが、この分が悪すぎる状況。
いずれ決着がつくのは火を見るより明らかだった。
ランサーの勝利が、低い可能性だという事実も……
一際大きな異音がなった。
フライパンと大剣がぶつかり合う音が、フライパンが裂ける音に変わる。
武器になり得るものを完全に失ったランサーに、その脳天をカチ割ろうと刃が振り下ろされる。
「死ねぇぇぇッ!」
(くそっ……もはやここまでか……主よ、申し訳ありません)
死を覚悟したのも束の間。
『ウラァァァァァァッ!』
新たな乱入者の声。
襲い来る熱風。
巨大な灼熱の拳が、男のドテッパラに打ち込まれる光景が、一瞬ランサーの視界に入る。
ドッガアァァァァァァンッ!!
瞬間、目も眩むような閃光、蒸気、熱風が吹き上がる。
男が吹き飛び、建物
『大丈夫ですかっ!』
立ち尽くすランサーに、幼さの響きが残る声がかけられる。
デカくて無骨で、ランサーが見上げるほどの巨体。
拳からもくもくと蒸気を上げる様は、中々に神々しい。
それは鉄の体を持つ騎士……アイアンナイトだった。
「貴方は……」
『あんたがゴブリンに襲われている所を偶然見かけたんだ。……間に合って良かった』
目の前の存在に語りかける疑問の声。
それに騎士はホッとしたような声で話す。
ゴブリンとは、自分に襲いかかってきた怪物の事だろうか?
「ありがとう……助かった」
例え人ならざる存在だろうが、助けてくれたことに変わりは無い。
ランサーのお礼の言葉に、鉄平は感動したような表情を浮かべる。
なぜか涙ぐんでいた。
『と、当然だ。困っている人を助けるって俺決めてんだよ「きっさまぁぁぁぁぁっ!!!」うぉっ!』
「……やはり、死んではいないか」
尋常じゃない怒りと気迫が込められた怒鳴り声に、ランサーと鉄平は振り向く。
「よくも……私のジャマをォォォッ!化物風情がァァァッ!」
壁に大穴が開き、倒壊した建物から、瓦礫を踏みつけ狂戦士が歩み出てくる。
装甲が多少コゲていた。
ただそれだけだ。
特殊生物に寄生され、人外となった上に最新鋭の強化措置を施された武重満には、先の攻撃は致命傷たり得なかった。
満の妃…白崎直央の命と再開を邪魔しうるもの。すなわち参加者を仕留められるはずの一撃を邪魔された怒りは尋常ではない。
『耐えたのか!……やっぱ雑魚とは違うな』
「気をつけろよ、あの男、顔に引っ付いている奴のせいかは知らぬが、……中々に強いぞ」
驚愕する鉄平と、愛という名の執着がもたらす力に警戒するランサー。
自然と、共闘の構えになる。
『あんた、危ないから離れてた方が……』
「大丈夫だ。我が槍がない事で不利なのは確かだが、敵に背を向けて逃げるのは騎士道に反する」
『……どうなっても知らないぞ』
ランサーに避難することを進言する鉄平。だが、誇り高い騎士であるランサーは拒否する。
強い意志を感じ取った鉄平は、そのまま黙った。
「死ねぇぇぇぇぇえァァァァァァッ!!!」
「来るぞっ!」
『あぁ、わかってるよ!』
今ここに、愛の狂戦士と、二人の騎士の戦いが始まった。
【5―B街/一日目・深夜】
【ランサー@Fate/Zero】
【状態】狂気、健康
【装備】フライパン(ほば鉄屑)
【道具】基本支給品、不明支給品二つ
【思考】基本:対主催
T:目の前の男(武重満)を鉄の騎士(鉄平)と協力して倒す
2:自身の愛槍か、せめて槍の代わりになるような武器がほしい
【備考】
ランサーの宝具「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」と「必滅の黄薔薇 」は没収されています
【武重満@ハカイジュウ】
【状態】狂気、健康、装甲に焦げ
【装備】全身凶器
【道具】基本支給品、不明支給品二つ
【思考】基本:我が妃白崎くん以外は皆殺しだァァァァッ!
T:目の前の二人を殺すッ!
【備考】
※単行本9巻あたりからの参戦
【丑鎮鉄兵@アイアンナイト】
【状態】健康、ゴブリン形態
【装備】強いて言えば全身
【道具】基本支給品、不明支給品三つ
【思考】基本:対主催
T:目の前のゴブリン(武重満)をランサーと協力して倒す
2:人を助ける
【備考】
※変身時間に制限あり。二時間変身した場合、能力が強制解除されて一時間変身できなくなります
【フライパン】
ランサーに支給。キレネンコが銃撃を防ぐ際に使用したもの。
銃撃には耐えきれたものの、人外の斬撃には耐えきれなかったらしく、現在大きく破損している
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