無題






少女が見せた狂気は、ハンが息絶えたのを見届けると消えた。
「……怪我はないか?」
サラディンが駆け寄る少女に上着を貸してやる。
「ありがとう!」
ぺこり、と頭を下げる様子からは、先程の残虐性を感じられない。
「私のことはサラディンと呼んでくれ。こっちのおじさんはカールというんだ」
「ありがとう、サラディン様、カールおじさん!
私の名前はエリザベス」
にっこり笑ってみせると。
「待て!なぜ我がおじさんで、こっちの異教徒が様付けなのだ!」
カールが憤然と抗議した。
「サラディン様がおじさんって言ったから…」
「ははは、私のこともおじさんで構わない。それより…」
ハンの死体に目を向ける。
「あの人を埋めるから、少し待っていてくれ」

大振りの枝を使って穴を掘る。
「…見たか、あの時の顔を」
カールは手伝いこそしなかったが邪魔もせず、サラディンに話しかけた。
ただしその視線はエリザベスと周囲を、見張っている。
「ああ。あんな少女が、信じられない…」
「だが生き残るためには、そのしたたかさが必要なのかも知れぬ。
我々が守ってやっている間はともかく」
「…」
サラディンが手を止める。
「どうした」
「いや、思ったより話せる男だと思ってな。
もう私を殺す気はなくなったのか?」
「勘違いするな。一人では少女を守ることが出来ない。
あいにく私は、睡眠を取らずに見張りを続けることはできぬからな」
「ああ、そうだな」
「…ふん」
クックッと愉快そうに笑うサラディンを見て、カールが顔をしかめる。
「まずは少女のために、雨露をしのげる場所を探すぞ」
「分かった」
土を払うと、二人の男は少女とともに歩き始めた。

【カール大帝】
[状態]健康
[装備]おもちゃの剣(投擲の為損失)
[道具]支給品一式
[思考]
1:少女を守る
2:無駄な殺人はしないが、異教徒には容赦しない

【サラディン】
[状態]健康
[装備]弓矢セット
[道具]支給品一式
[思考]
1:少女を守る
2:協力者を集め、ここから脱出する

【エリザベス一世】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]支給品一式
[思考]
1:何を考えているか不明



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