無題
数分の後、ようやくダーウィンは落ち着いた。
「すみませんでした、お嬢さん。私は娘を亡くして以来、神の愛などというものがどうしても信じられないのです」
ジャンヌは同情と侮蔑が混じりあった声で答える。
「あなたのお気持ちはわかります。私も、闘いの中で多くの仲間を失いましたから。
しかし、そうだとしても神の愛を疑うなどとは……」
二人の会話は、突如扉を開けて入ってきた人物によって遮られた。
その帽子を深く被った人物を見て、ダーウィンは思わず声を上げる。
「ファーブル先生!! ご無事だったのですね!!」
ダーウィンは、名簿の中に彼の名前を見つけてから、ずっとその身を案じていたのだ。
しかし、彼の喜びも、ファーブルがずっと自分に向けて銃のようなものの先を向けているのに気が付いた途端消えうせた。
「チャールズ・ダーウィン……こんなに早く遭えるとはツイていたよ。貴様は今から、ここで死ぬ」
「せ、先生……一体どうしたというんですか?」
そのただならぬ様子に、心から彼を敬愛していたダーウィンも戸惑いを隠せない。
「なんだ、その顔は? どうせ、こんな田舎生まれのじじいに何が出来るのかと、腹の中でせせら笑っているんだろう?」
ファーブルは、今まで誰にも見せたことが無いような薄気味悪い笑顔を見せた。
「先生、ご冗談を……」
ファーブルに歩み寄ろうとしたダーウィンを、ジャンヌがかばうように制する。そしてファーブルに向かって言った。
「貴様、そんな物を我らに向け、そんな口を叩く以上は、ここで斬り捨てられようと文句はあるまいな?」
ジャンヌの手元には実際には一本の剣すらありはしない。しかし、彼女は誇りだけを武器に敵の前に立つ。
「お待ち下さい、お嬢さん!!」
そんな彼女の殺気を感じ取り、ダーウィンが慌てて間に割って入る。
「先生、誤解です!! 私は本当に先生を、博物学の先輩として尊敬していました。
この私が先生を軽蔑することなど、絶対にあるものですか!!」
「黙れ!! 私を見下すインテリどものご高説はもうこりごりだ!! 貴様はここで死ぬんだよ!!」
ファーブルはどうしても信じることが出来ない。
この、後世には「進化論の父」として世界中の誰もが尊敬する存在になる大学者が、一介の昆虫学者である自分のことを本当に心から尊敬していたということに。
ファーブルはニードルガンの銃口をダーウィンに合わせると、ためらい無く銃口を引こうと……
「煩いぞ、貴様ら!! 朕の前でかような騒音を立てるとは何事か!!」
我が物顔で教室に入ってきた男の一言によって、張り詰めていた空気は一変した。
三人は狐につままれたような顔でその男の顔を見る。
一見して東洋人と分かる肌色と、王族にしても随分と華美な服装が目を引いた。
その男は、ファーブルが持っていたニードルガンを目にするとますます怒りをあらわにした。
「貴様、誰の許しを得て朕の前でかようなものを持っておる!! 双方とも、武器をしまえ!! 天子の御前であるぞ!!」
【一日目・午前二時半/小学校(職員室)】
【ダーウィン】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]支給品一式
[思考]
1:ファーブルを説得する
2:ここから脱出する方法を模索する
【ジャンヌ・ダルク】
[状態]健康
[装備]ガリレイの望遠鏡
[道具]支給品一式
[思考]
1:ファーブル及び乱入してきた東洋人が危険人物であれば容赦なく殺す
1・ダーウィンに哀れみを抱いている
2・弱いものを守る。敵対するものは容赦なく殺す
【ファーブル】
[状態]健康
[装備]ニードルガン
[道具]支給品一式
[思考]
1:ダーウィンを殺す
2:他の二人も殺す
3:目に付く人間は全て殺す
【始皇帝】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]支給品一式
[思考]
優秀な家臣を選抜し、ヒトラーを討つ
※中華統一の直後からの参戦です
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