地獄耳






―――――――最初からこうすればよかったんだ。

シレンは巻物を見ながらそう思った。
支給時は白紙だったその巻物は、今ではこの島の地図が浮かび上がっている。
さらによく見ると地図上を無数の赤い点が動いている。
地獄耳の巻物。風来人の間ではよく知られた巻物だ。
自分以外の存在の位置を知ることが出来る、便利なアイテムである。
手持ちの白紙の巻物の一枚を使ってこの巻物を作り出したのだ。
改めて地図を見てみると各参加者がいろいろな動きをしていることがわかる。
一人で動いているもの、何人かで組んでいると思われるもの。

「とりあえず、これ見て動けば簡単には・・・」

と、その時気が付いた。

「ん!?すぐ近くにいる!?」

地図をよく見ると、現在地のすぐそばに二人いる。
動きからすると自分を追っているわけではないようだ。
とりあえず、シレンはそこに行ってみることにした。
相手の位置がわかるのだから、いざとなれば容易く逃げられる。

【「風来のシレン」 シレン 白紙の巻物1枚所持、地獄耳の巻物使用中 生存】


リベンジ



「・・・貴様か」
「また会えるとはな。借りを返させてもらおうか」

二人の騎士が対峙していた。

「自分の刀に振り回される男に俺を倒せると思っているのか?」

濃紺の鎧を纏った男――――カインが問う。

「扱いなら覚えたさ・・・我が名はオルステッド!行くぞ!」

名乗ると同時にオルステッドは背負っていた幅広の日本刀、胴田貫を抜き放った。
身体ごとぶつかるようにして刀を浴びせていく。斬るのではない。全体重をかけて叩きつける。
その一撃の危険性を察知し、バックジャンプして避けるカイン。

「なるほどな・・・その刀の大きさ、重さから考えればそれが最善手というわけか」
「受ければ、その受けごと破壊する。東洋人は大した武器を作ったものだ」
「・・・」

カインは動揺していた。以前に不意打ちを仕掛けた時とは状況が違う。
あの武器は危険だ。下手な剣や防具で受けた場合、それごと叩き割られてしまうだろう。
それ以前に、自分の武器であったグラディウスは奪われてしまったのだが。


決定打



オルステッドが刀を打ち込んでいく。
思い切り浴びせてくるため、一撃一撃の間が開くのがカインにとっては救いだった。

「どこまで避け続ける気だ?」
「さぁな」

言葉ほど、カインには余裕はない。喰らえばそこまでだ。

「・・・喰らえば、だがな・・・」

ふっと笑うカイン。背後に木を背負った。

――――――愚かな。

オルステッドは思った。
どうやら、槍をなくしてしまったらしいこの男は、
紙一重で避けて刀が木に食い込んで抜けなくなったところを襲うつもりなのだろう。
だが、この刀は切れ味も素晴らしいものなのだ。
金属ですら断ち割る刀が、木を問題にするわけがない。
ならば、乗ってやろう。抜けないふりをし、カインが攻撃してきたところで斬る。
オルステッドは刀を振り下ろした。

ズバァァァァァッ!!


勝者は・・・



(・・・何だ、これは?)

倒れていたのはオルステッドの方だった。
どうやら、致命傷を負ってしまったらしい。

「俺の武器があの槍一つだと思ったのが運の尽きだ」

カインは最初に支給された斧を持っていたのだ。
オルステッドが迫った瞬間、それを投げつけたのである。
カインに攻撃の手段があると思わなかったオルステッドはまともに喰らってしまったのだ。
斧は刃こぼれはしていたものの、殺傷能力は十分にあった。
斧を拾い上げると、オルステッドに迫るカイン。

(すまない・・・アリシア・・・私は君の元には帰れそうもない・・・本当にすまない・・・)

オルステッドの脳裏には愛する人の顔が浮かんでいた。

「・・・アリシア・・・私は・・すまない・・・」
「何をブツブツ言っている」

カインは容赦なく斧を振り下ろした。

「何に詫びているのか知らないが、そんなに詫びたければ」

オルステッドの死体を見下ろし吐き捨てるカイン。

「あの世で詫び続けるんだな、オルステッド」

【「ファイナルファンタジー4」 カイン 斧所持 生存】
【「ライブ・ア・ライブ」 オルステッド 死亡】
【残り39人】




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