無題
ここには化物が巣食っている。
一通り島を一周した小夜は、こう決断した。
自分が今まで戦ってきた日本妖怪に比べて数段上のレベルの化物がゴロゴロいる。
それらは皆、歴戦のつわものばかりだ。懲らしめてそのあと説得、では到底
甘すぎて生き残れないだろう。化物なら、こちらも容赦せず戦うまでである。
幸いこちらには先の戦いで手に入れた拳銃がある。重火器を扱うのは初めてだが、
いつもお札を投げていた自分にとっては狙うのはたやすいだろう。
(普通の覚悟じゃ、ダメなんだ)
小夜は自分に何度も言い聞かせた。しかしその心ではどうしても恐怖心、
そして自分の「化物」に対する慈悲の心(とでも言おうか)を捨て切れないでいる。
「ガタンッ、ガラララッ」
その時、小夜の隠れていた民家に何者かが侵入してきた。
「!!!」
小夜はタンスの陰に隠れていた。破裂しそうな心臓を何とか押さえて、恐る恐る玄関口を盗み見ると
ホッケーマスクを付けた大男が辺りを物色していた。片手には長い角材を持っている。
(ダメ!怖い!私あんな化物と戦えない!)
大男は、なぜかブツブツと独り言を言いながら棚を開けたり風呂場を見回ったりしている。
「・・・・どこだ・・・どこに・・・・・・いるんだい・・・」
その声は、とても低く、そして物悲しかった。
(アイツ、私を探してるんだ!!この家に私がいるのが解ってたんだ!!)
小夜はブルブルと震える自分の手を押さえ、こぼれそうな息を飲み込んだ。
(普通の覚悟じゃ、生き残れない!!!)
目をかっと見開いた小夜はタンスの陰から飛び出すと、次の部屋へのドアを開けようとしていた大男に後ろから拳銃を乱射した。
「しっ、死んでぇぇぇぇ!!!」
大男はまったく気づいていなかった様子で、小夜が放った計5発の弾丸をすべて背中に浴びた。
そしてガクッと膝を突き、仰向けに倒れこんだ。
「やった・・・!倒した・・!!」
恐る恐る死体に近寄る。よく見ると囚人服のようなボロボロの服を身に着けている。
(この化物、どんな顔してたのかな・・・)
恐怖心と好奇心が入り混じった気持ちが小夜を突き動かす。
人間特有のその悲しい習性ゆえ、小夜はマスクに手を伸ばした。
マスクをはずすと、「人間」が出てきた。なんとまだ息がある。
苦痛の表情を浮かべるその「人間」は、ゆっくりとまぶたを開いた。
「・・・ここにいたのかい・・・やっと会えたね・・・」
その目は明らかに小夜を見つめている。もちろん小夜はこの「人間」を知らない。
とても優しいほほえみを浮かべ、ちぎれるような声で言った。
「君を探していたんだ・・・・君に会いたかったんだ・・・・もう離さないよ・・・・」
「人間」は震える両手を小夜の方に伸ばし、腕の中に収めようとする。
小夜はもう動けない。あまりのショックに息さえできないのだ。
「・・・・これからは・・・ずっと・・・いっしょだ・・・・」
小夜を抱きしめた「人間」はそのままガクンと沈み込む。
「愛して・・・いるよ・・・・・・ジェニファー・・・・」
そのまま、動かなくなった。その表情はとても穏やかで、優しかった。
「・・・・これは・・・?何?わたしが・・・・殺したのは・・・・誰?化物・・・・?人間・・・?
わたしは・・・この『人』は・・・・愛する人を・・さがし・・・て・・」
どう表現しようもない嗚咽が小夜から漏れる。
「いやああああああああああああああああああッッッ!!!!」
小夜はそれから、全ての感情をなくしてしまった。
長い間その場にうずくまっていたが、やがて自分の持っている拳銃に1発玉が残っているのを発見すると、
ためらいもなく自分のこめかみに放った。そのまま大男の上に倒れこみ、二度と起き上がることはなかった。
【「奇々怪界」 小夜 死亡】
【「スプラッターハウス」 リック 死亡】
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