無題






あちこちの民家を駆け回って、得意の得物をたくさん集めること
ができた。とりあえずこれで、何とか凌ごう。誰かに襲われ
から、これで目潰しをして、逃げる。逃げ続ける。それしかない。
僕は、ずっしりと重くなったディパックを肩から下げて、民家を
離れた。ひとまず、森の中に隠れることにする。
今はただ、神様に祈るのみ。どうか、誰にも会いませんように。
僕はごく大人しい平和主義者で、人殺しなんかはもちろん、
虫ケラ一匹……いや虫は殺したけど、でも人と争ったことは
ないんです。お願いします。殺し合いなんかさせないで下さいっっ。
森に入ってしばらく進んだ時、僕の目の前に、一人の女性が
現れた。何だか表情が無いけれど、紫色の髪をした大人っぽい
美女だ。
僕は、戦うつもりはありません、と言おうとした。けど、その女性
は無表情のまま有無を言わさず、
「敵影発見、センサー作動」
どこから取り出したのか、巨大な大砲を肩に担ぎ上げた。僕の
記憶に間違いがなければ、これは確かイカロス砲とかいう……
「私の攻撃」
僕は、とてつもない殺気を感じて身をかわした。直後、一瞬前
まで僕のいた空間を、凄まじいエネルギー波が空間ごと薙ぎ払って、

ちゅどおおおおぉぉん!

遥か彼方の、山を吹っ飛ばしてしまった。
「ひ、ひええええぇぇっ!」
僕は、逃げた。逃げた。けれど女性は、巨大なイカロス砲を軽々と
担いで、相変わらず無表情で追って来る。何やらブツブツ言いながら。
「敵はマリオ……否、訂正。スタンリー。
その数、1」

僕をマリオと間違えたらしい。失敬な。僕は……などと言ってる間
にも、女性は容赦なく次から次へと撃ってくる。そのつど、山や川が
削がれて崩されて地形が変わっていく。
「く、くそっ、こうなったら……」
全く呼吸も乱れない様子の女性を見て(人間じゃないらしい)、僕は
戦いを決意した。といっても、当初の考え通り目潰しを仕掛けて
その隙に逃げ切る、というだけだが。……僕は平和主義者なのだ。
ディパックに手を突っ込んで、「それ」を取り出そうとした、その時。
僕は、背後から迫ってくる女性に気を取られる余り、周囲の警戒
を怠ってしまっていた。普段なら絶対気付くはずの、横合いからの
宿敵の奇襲を、かわせなかったのだ。
その一撃は、容赦なく僕の首筋に突き刺さり……僕は、倒れた。
ディパックから、僕の得物が転がり落ちる。これを、冷静に
使えていれば、こんな死に方はせずに済んだのに。
だが、全てはもう遅い。僕の首筋から、思う存分血を吸った奴は、
悠々と飛び去って行った。
それが、僕の見た最後のものだった。ゲーム参加者ではなく、
この島の野生生物にやられてしまうとは……

「スタンリー、破壊。殺虫剤を
得ました。そして……」
ミオは、飛び去っていく生物を見て、ぽつりと言った。
「蚊に刺されて死ぬ人間がいることを、知りました。スペランカー
以外にも、虚弱な人間は多数存在する模様」

【『銀河の三人』 ミオ 生存 殺虫剤入手】
【『ドンキーコング3』 スタンリー 死亡】



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