無題
もはや人の体とは呼べないような状態の轢死体を目にし、彼はあらためてこの場所がどういうところか思い知った。
彼も敵を押しつぶしたことはあったが、これはひどい…ほとんど原型をとどめていない。
「しかし…」
不気味な状況だった。近くには巨大な「荷物」がぽつんと置いてある。
…「荷物」としか説明しようがないのだ。何の荷物なのだろうか?
彼の背丈よりも大きい巨大な立方体が、カバーと紐で梱包されている、それだけの物。
誰かの武器なのだろうか?そこの死体になった人間を殺したのも…いや、それなら荷物の形をしている必要がない。
そもそも武器なら、回収する必要があるはずだ…
あたりを見回すと、小さなビンが落ちていた。中身は、胡椒だろうか?死んだ男の持ち物だろうか…
「形見、というわけでもないが、もらっていくよ…僕にとってこれは命の綱なんだ」
胡椒ビンを拾い上げると、ふたが壊れていたのか、あるいは何かの拍子でビンが壊れていたのか、
中の胡椒が飛び散った。近くにあった死体や荷物に、胡椒が降りかかる。
「轢死体に胡椒か…僕の職業から考えると、とんでもないこと… …!?」
彼は自分の目を疑った。胡椒が目に入って涙でにじんだわけではない。
さっきまでそこにあった荷物が猛スピードで自分に向かってくる!
「そんな、馬鹿な!と、止まれ!止まれえ!!」
彼は荷物に胡椒を振りかけた。これで、荷物の動きが止まるはずだった…が
「!止まらない!!うわああああ!!」
ボギボギボギッ
その音は彼の耳に届いただろうか。彼の全身の骨が粉々になる音を。
薄れいく意識の中で、彼は運命の皮肉を呪っていた。
まさか、自分にミンチになる順番が回ってこようとは…
「荷物」が引き返してくる。
【「涙の倉庫番スペシャル」 形助 死亡】
【「バーガータイム」 コック 死亡】
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