無題
《みんな、ぼくたちの話を聞いて! 戦いをやめて、ここに集まって!》
高台にある展望台から、二人の少年が拡声器で呼びかけている。
聞き覚えのある声に、マリオは顔を上げた。あれは同郷の……
「な、仲間がいたんだ!」
「行きましょう、マリオ!」
ゲーム開始以来、殺し合いを拒否し続けてきてマリオは、
レディと共に二人の元へ駆け出そうとした。
が、その場にいたもう一人の男が、立ちはだかり遮った。
「やめろ。そう易々と他人を信用するんじゃない」
「何だとっ!?」
《ぼくは必死に羽ばたいて、こいつより上のポジションを取ろうと
したけど、天井(?)にぶつかって跳ね返って、結局下になって
やられてしまった!》
《ぼくはこいつより先にシャボン玉を取ろうとして、水面スレスレ
まで下降したら、でででっでで〜と魚に一飲みにされた!》
《という訳で、殺し合いは虚しいんだ! だからみんな、殺し合いはやめて!》
マリオは、男に必死に抗議した。
「聞こえないのか? あの二人、正しいことを言ってるんだぞ!
俺だって、あの二人ほどロコツで直接的ではないにしろ、弟と
殺し合いをした経験がある……だから、解るんだ! あの二人の
気持ちが!」
その時、「ぽひゅううううぅぅん、ちゅどぉん!」と音がして、
拡声器の声は途切れた。
外宇宙の、伝説の惑星破壊砲の音だった。
続いて、拡声器から無機質な女の声が。
《オフィシャルネーム無しのプレイヤー1、2全機破壊。
風船と空気入れを得ました》
「……もう間に合わん。あの二人のことは諦めろ」
男が、ぼそっと言った。
マリオは男の胸倉を掴み、叫んだ。男の平然とした態度が、
許せなかった。
「お前……お前に何が解るっ!」
「俺だから解るんだっ」
男はマリオの手を振り払い、言った。
「かつて……俺は恋人を浚われた。そしてお前と同様、救出の為
に戦ったのさ。凶悪な罠や、強力な敵の数々に苦しみながらな。
そして遂にラスボスの元に辿り着いてみれば……そいつは……
そいつの名は……」
男、ビリーは遠い昔を思い出しながら言った。
「そいつの名はジミー。俺の実の兄だった」
「! で、ではお前は、実の兄と……?」
「ああ。……しかも、だ。クソ兄貴はのうのうと生き延び、
しゃあしゃあと次回作で2Pキャラになりやがった。俺と仲良く
協力して、恥ずかしい名前の技を使う格闘家と戦ったんだ」
ビリーは、拳を震わせて語った。
「……」
マリオが沈黙し、レディは涙を浮かべる。
「ビリー君、可哀想。というか、一作品丸々、恋人を巻き込んで
壮絶な兄弟ゲンカをしたっていうのも相当恥ずかしい話だわ。
確かに、未だに語り草にしている人も多いわね。あなたたち兄弟の
不和っぷりは」
レディの容赦のないコメントに、ちょっとビリーが傷ついた。
「まあ、その……アーケード版では話も違ってくるんだが」
「あっちはあっちで、醜く、浅ましく、ギャラリーを大爆笑させる
兄弟ゲンカを繰り広げると聞いたわよ?」
「……」
ビリーは、無言で困り果てた。事実なので、マリオもフォローはできない。
場を、虚しい沈黙が支配した。
【『ドンキーコング』マリオ、レディ、『ダブルドラゴン』ビリー・リー生存】
【『銀河の三人』ミオ生存】
【『バルーンファイト』プレイヤー1、2死亡】
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