無題
日本風の落ち着いた料亭の一室に、まだ年端もいかぬ少年が陣取り箸を動かしていた。
ちょんまげに、はちまき、陣羽織姿も勇ましい。
バトルの合間のちょっとした休息のつもりだった。
パタン
突如、少年の手から箸が落ちた。
ピリピリと指先を刺す痛み。
頭がぐらつき、意識が遠のく。
少年は、瞬時に自分の身に何が起こったのかを理解した。
「…当たりやがった!」
頭から膳に倒れこみ、料理が畳に散らばる。
皿の模様が見えるほどに薄く切られた魚の切り身。
少年が有り金をはたいて買った高級料理が裏目に出てしまったのだ。
「こんなことでっ!RPGの主人公で、愛と勇気の子であるこの俺がっ!
女湯だって何度覗いても捕まらなかったこの俺様がっ!
河 豚 の 毒 で死ぬのかっ!」
叫んでみてももう遅い。強制イベントには逆らえない。
「店に謝罪と賠償を要求し……ガクッ」
それが少年、桃太郎の最後の言葉だった。
遺体には、申し訳程度に金色の毛皮が捧げられたという。
【『桃太郎伝説』桃太郎死亡】
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