無題






「えいっ! ファイヤー!  アイスストーム!」
「いくぞっ! いくぞっ! いっくぞーーーっ!」

森の中では壮絶な魔法合戦が、生い茂った木々の梢を震わせていた。

片や、ポップルスの王女にして花の妖精リップ。
片や、究極魔法「オワニモ」を操る魔導師の卵アルル・ナジャ。
しかし、勝敗の帰趨は、誰の目にも明らかだった
――絶望的な防戦を続けている、アルル自身の目にも。

リップの振るうステッキから繰り出されるおじゃまパネルは、
アルルの慣れ親しんだおじゃまぷよとは違い、
周囲のぷよを消しても色付きのおじゃまぷよに変わるだけで、
依然としてステージに残り続けるのだった。
それに引き比べて、アルルの送り込むおじゃまぷよは、
リップのパネル消滅の一撃で瞬殺されてしまう。

どうやらリップの方でもパネルとぷよの性質の違いに気付いたらしく、
先程からは手間のかかる連鎖よりも、
同時消しのおじゃまパネルをひたすら送り込む戦法に切り替えていた。

マズいよ……このままじゃ、ボクやられちゃうよ!

焦りつつも手近にあったおじゃまパネルを何とか普通のぷよに変え、
ほっと一息つきながら、アルルはおじゃまパネルから生まれたぷよの、
その不自然な挙動にはっと目を止めた。

これをうまく利用すれば……もしかして。
突然、アルルが無防備な体勢でリップの目を見返した。

リップもつられて、思わず攻撃の手を休めた。
「……どうしたの? もう諦めたの?」
「ウウン、キミには今すぐ降参して欲しいんだ。
 ホントは、こんなプログラムのために、キミをやっつけたくないんだ。
 でも、降参してくれないようなら……
 今すぐ、キミにふさわしい因果をきめてやるッ!」

窮地にあるはずのアルルの落ち着き払った態度に、リップは逆上した。
――ポップルス次期女王のあたしをバカにするなんて!
絶対に許さないんだから!

リップはパネルを、一気にステージの限界までせりあげた。
次の大連鎖の一撃で、この勝負に片を付けるつもりだった。

そのリップの奢りこそ、アルルが待ち望んでいたものだった。

アルルはおじゃまパネルと隣接するぷよを消した。
そして、そのぷよを素早く横に滑らせた――やはり思った通りだった。
一度他のぷよと接触してしまったぷよは、もはや動かすことは出来ない。
しかし接触する前ならば、アルルには自由にぷよを動かすことが出来る。

――それこそは、アルルには今まで使う機会の与えられなかった、
「アクティブ連鎖」の能力だった。
パネルから変化したぷよが他のぷよと接触する直前に、
アルルは素早くぷよを移動させ、大連鎖の種として組み替えた。
大連鎖の形を組めたところで、そのぷよをまた連鎖の材料にする。
その連鎖の連鎖は、無限に続くかのように思えた。

「……ダイアキュート! ブレインダムド!  じゅげむ!」
「な、なにやってるの!?」
猛烈な勢いで消されていくおじゃまパネルに、リップが怯えたような声を上げた。
次の瞬間、ぶんなぐられたような衝撃と共に、
リップのステージはおじゃまぷよで埋め尽くされていた。

(こ、こんなところで、まけるもんか……!)
リップは逆転のチャンスを求めて、身動きもできない隙間からステージを眺め回した。
しかし混乱したリップの目には、連鎖の形は見つからなかった。

「……ば・ば・ば・ばよえ〜ん!」アルルがとどめの一撃を送り込んだ。

せりあがるパネルとおじゃまぷよに無慈悲に押し潰され、
リップの最後の叫びは、誰の耳にも届くことはなかった。

【『ぷよぷよ』アルル・ナジャ 生存】
【『パネルでポン』リップ 死亡】



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