無題
「支給武器以外、一切の装備没収」という血も涙もないルールの
おかげで、俺ことアーサーは赤パン一枚という格好をしている。
支給武器が、俺にとって一番使い易い短剣だったのは不幸中の
幸いだが……しかし俺は、同じ短剣使いを相手に、苦戦していた。
奴が矢継ぎ早になげてくる短剣を、必死になってかわしている。
「ほらほらどうした、勇者アーサー! 魔界村を滅ぼした男の
実力は、その程度なのか? 少しは反撃してみろ!」
奴は、白い服に白い帽子を被った冒険家だ。考古学者という肩書き
もあるらしいが、どう見てもそうは思えない。
そして俺は、そいつ相手に苦戦している。理由は簡単だ。
奴が「ステージ2仕様」だからである。
こっちは、一発喰らえばその場でお陀仏。それがどんな攻撃で
あれ(例えば奴の短剣でも)、瞬時に白骨化だ。
が、奴にはライフという厄介なシロモノがある。一発や二発
喰らっても、ころころ転がるだけで済むのだ。
こちらは常に死と隣り合わせ、だが向こうは若干の余裕がある。
その差が、こちらには焦りを、向こうには強気を与えている。
いかん。このままでは、いずれ……
「ふっ! 所詮、赤パン一枚で墓場でデートするような変態は、
ここで俺にやられる運命ということだ!」
「っ! ひ、人が気にしていることを!」
「ほほう。俺はまた、あっちの方を気にしているかと思ったが」
「何のことだっ」
「お前のとこの、お姫様の名前」
ずがああああぁぁぁぁん!(←俺の頭の中)
「恥ずかしいよな、あれは。ちなみに俺んとこはマリア姫。
本編のみならず、後日談のゲームブックでもこれがまた可愛くて」
「……黙れ、リアルタイムアクションアドベンチャー野郎」
俺は、中指をびっ!と立てて奴を挑発した。
案の定、奴の顔色が変わった。
「き、貴様! ゆ〜てはならんことを言ったな!」
「ふん。当時はまだ良かったが、二十年経った今となっては、」
「言うな言うな言うな言うなっっ!」
「お前の存在は、どこぞの頭脳戦艦と同じ……」
「言うなああああぁぁぁぁっ!」
奴は、冷静さを失って短剣を乱射した。速さこそ凄いが、狙いは
ムチャクチャだ。
俺はそれをかわしながら、徐々に間合いを詰めていった。
今、閃いたのだ。俺も奴もアクション出身だと思い出したから。
俺も奴も、武器を投げて戦う者同士。だが、決定的な違いがある!
「ていっ!」
隙を突いて、俺は奴に抱きついた。
「な、何をする気だ!? 俺もお前も、格闘なんか……」
「こうだああああぁぁぁぁっ!」
俺はそのまま突っ走り、そして背後の崖から飛び降りた。
「なっ!? ……うぎゃああああぁぁぁぁっ!」
奴は断末魔の叫びを上げ、くるくる回転しながら絶命した。
俺は奴の死骸を投げ捨てて、一足先に着地する。遅れて、
奴の死骸が落ちてきた。
「ふうっ」
俺は、下に地面さえあれば、どんな高所から落ちても生き延び
られる。だが奴は、ある程度以上高い場所から落ちれば、それが
空中でも絶命するのだ。
そういえば、一番に脱落したあのスペランカーも冒険家(推定)
か。冒険家という職に就くと、人は弱くなるのだろうか。
ともあれ俺は、奴の短剣も回収して駆け出した。俺は、俺の
愛する姫君の為に、何が何でも生きて帰らねばならない。
「……待っていてくれ、プリンセスプリンプリン。必ず
生きて帰るぞ、プリンセスプリンプリン」
【『魔界村』アーサー生存】
【『チャレンジャー』チャレンジャー死亡】
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