試合開始







 一瞬、まるで懐かしい教室に居るかの様な感覚が、赤島烈人(男 七番)に襲った。
 かつて、ポケモントレーナーになる前、通っていた学校。
 ――夢でも見ているのか?
 それでも、過去に戻った様に感じたし、級友達と話し合っている光景がレッドの頭に浮かんだ。
 レッドは机(見えないが、ちょうど学校で使う感じの)に寝ていた様だったが、回りは全くの暗闇で、今何処に居るのか理解できなかった。
 だが、感じた。そこら辺から生き物の息吹を。
 ポケモンのものだろうか?
 オーケイ。ここは岩山トンネル辺りで、こんな危険な場所で授業すると? ファック・オフ。
 まあそんな訳で数分経った頃、そろそろ慣れてきた筈のレッドの神経は一瞬、総動員するハメになった。

 突然、回りにスポットが幾つも明けられたと思うと、慌てたレッドの目の前に教卓が現れたではないか。
 厳密に言うとそのスポットは蛍光灯で、ここはやはり、学校(見覚えないが)だった。
 そして、回りには先程の自分の様に机で素直に寝息を立てている人々が――20人は居るのではないだろうか?
 じゃあ、あれですか? 今まで勉強を怠って来たから、君達は補習――

 教室のドアが音を立てた。
 そこから、白衣を着た博士の様な人物が教室に入って来た。
 髪はもうほとんど白髪になっていて、顔もすっかり疲れた様にくたびれた皮膚で覆われている。そしてなにより――レッドはその人物に見覚えがあった。
 そして、視線がレッドと合った。
 その人物は黙ったままで、不思議とレッドも、暗黙の了解(まさにその通りなのだが)と言う感じで口を出してはいけないような感覚に襲われた。
 ここではまだレッドしか起きていなかったので、その人物とレッドはたっぷり一分間は見つめ合っていた事だろう。
 が、回りも起き始め、その人物の視線もやがて、レッドを向いてはなくなっていた。
 回りは回りで、やはり訳が分からないのか、辺りを見回している様な人が多かった。

 その人物は、全員が起きた事を確かめると、初めて口を開いた。
「みんなー、よく眠れたかぁ?」

 レッドが確認した限り、同じこの教室にお調子者代表の様な人物が居たが、そんな彼も今はまだ俯いて黙ったままだった。
 いや、正確には――呆れて絶句していた、のだろう。

【残り 20人】



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