終わりの始まり
「何だ?こりゃあ…」
彼―キャプテンマーベラスがその光景を目にしてまず口にした言葉がそれだった。
体育館のような広い空間に、自分を含め何十人もの人間が集められていた。セーラー服や背広といった街中で見かけても不思議ではない格好をした者もいるが…全身タイツや鎧等、まるで仮装パーティーに出るかのような奇妙な格好をした者が大多数を占めていた。
そして左右の壁際にはどう見ても人間には見えない…いや、動物にしてもありえないような巨大な何かが眠りこけていた。
一方は猿に見えるが、二階建ての家程の大きさがあり、もう一方は見ようによってはトカゲに見えなくもないが、2本の太い脚を持ち、ビル程の大きさがあった。
「どうなってんだ…?」
マーベラスはどうして自分がこんな場所にいるのか分からず、首を傾げた。
その時だった。天井から巨大なモニター画面が下りてきたのだ。最初そのモニター画面は砂嵐を映していたが、次第に映像が鮮明になっていき…
『お目覚めかね、諸君……』
イカを彷彿とさせる頭部をした隻眼の異形を映し出した。その異形の姿を目にし、マーベラスは驚愕した。何故ならばその異形は、彼を船長とする宇宙海賊の敵たる宇宙帝国ザンギャックの長…
「皇帝…!」
『すでに知っている者もいるだろうが、私の名はアクドス・ギル。宇宙帝国ザンギャックの皇帝だ』
アクドス・ギルの姿を目にし、どこからか悲鳴が聞こえてきた。アクドス・ギルはその悲鳴を歯牙にもかけず、淡々と話を始めた。
『さて…この場に集まってもらった諸君は『日本』と『アメリカ合衆国』…二つの地域から選ばれた…いわばそれぞれの地域からの代表だ。こうして諸君に集まってもらったのは他でもない…』
アクドス・ギルは一度言葉を切ると、大きく息を吸い込んで言った。
『これより諸君には…相手方の代表を皆殺しにしてもらう』
アクドス・ギルの言葉を聞いた者は、例外なく固まった。それに構わず、アクドス・ギルは説明を続けた。
『ルールは単純明快。我々が用意した会場内で、日本代表はアメリカ代表を、そしてアメリカ代表は日本代表を…どちらか一方が全滅するまで殺し尽くすのだ。勿論タダとは言わない。それなりの見返りはある。勝利した側の者には、このザンギャック皇帝アクドス・ギルの名において、どのような願いでも叶えよう』
「…ふざけるんじゃない!」
会場の中から怒りの声が聞こえてきた。声のした方に目を向ければ、左目に黒い眼帯を着けた大柄な黒人男性がモニター画面の向こうのアクドス・ギルを指差していた。
「貴様の行おうとしている行為は許されない!シールドの権限において、必ず貴様を逮捕する!」
「そ、そうだ!殺し合いなんて誰がするか!」
首からカメラを下げた男も立ち上がり、黒人男性と同じくアクドス・ギルの告げる殺人ゲームに異を唱えた。
しかし、アクドス・ギルはそれを屁とも思わず…指をパチンと鳴らした。
風船が破裂したような音が響いた。
先程まで殺人ゲームに反対していた二人の男の胴体がまるでスイカのように粉々に吹き飛び、腰から下だけが虚しく横たわっていた。
二人の男の胴体は何の前触れもなく爆発したのだ。
『言い忘れていたが…諸君の体内には我がザンギャック特製の爆弾を埋め込ませてもらった。我々に逆らい、会場から逃げ出そうとしたり、会場内の立ち入り禁止エリアに侵入した場合、爆発するようになっている。あぁ、念の為言っておくが、エネルギー吸収能力者でも爆死させる事が出来る特別製だ。無駄な事はやめるんだな』
その言葉を聞き、ある者は顔を歪ませ、ある者は舌打ちをした。
『さて…では詳しい説明を始めよう。
公平をきす為に、諸君には我々が用意した支給品が配布される。中にはランダムで武器が三種類、それに3日分の水と食料、会場内の地図等が入っている。有効に使いたまえ。
また、6時間ごとに放送を行い、その時間までの死者とその時間からの立ち入り禁止エリアを伝える。聞き逃さないようにな。
それから、生まれつき特殊な力を持っている者にはその力を抑える処置が施されている。普通の人間に殺される可能性も考慮するように…ここまでで何か質問は?』
「あぁ…それじゃあ一つ良いかな?」
参加者の一人が手を挙げた。クモの巣模様の全身タイツを着た男だ。
「もしも…もしもだよ?もしも僕ら全員が『殺し合いなんてヤダー!』って言って、一人も死ななかったら…どうなるの?」
その質問にアクドス・ギルは親切に答え始めた。
『あぁ、それはもちろん自由だが…殺し合いが進まなければ諸君の体内の爆弾が爆発して全員が死亡するのはもちろんだが、それだけではない。もし、24時間以内に一人の死者も出なかった場合、我が宇宙帝国ザンギャックの全戦力をもって…』
『日本列島と北アメリカ大陸の双方を、地球上から消滅させる』
「…あっそう」
クモの巣ガラの全身タイツ男は、その場に座り込んだ。
これでもう、後戻りは出来なくなった。
もし殺しが起きなければ、日本とアメリカが消滅する…つまりは、何十億人もの命が人質になっているということだ。
そして、説明を終えたアクドス・ギルは、右手を高々と掲げて宣言した。
『…ではこれより、バトル・ロワイアルを開催する!』
アクドス・ギルが指をパチンと鳴らすと同時に、その場にいた参加者はまるで煙のように掻き消えた。跡には、電源の切れたモニター画面のみが残った。
【ニック・フューリー@マーベル・シネマティック・ユニバース(アメリカ)死亡】
【富竹ジロウ@ひぐらしのなく頃に(日本) 死亡】
【残り 日本40名 アメリカ40名 計80名】
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