虚像の勝利
彼女が欲しくてやまなかった男が目の前に座っている。
背を壁に寄せ、赤い池の上でぐったりと垂れ下がっていた。
「……やっぱりこうなっちまったか」
夕暮れの中、玲二の遺体の前、佇むドライ。
「玲二の性格だ、半ば解ってたんだけどね……。
でも直視するとやっぱりな……」
涙はでない。
やせ我慢しているわけではない。
そういう事態も見据えた上での契約だったのだから。
「確かにあたしの勝利さ……。
この仕事が終われば、もう玲二はあたしの『仲間』なんだからな……」
ケルヴァンと取り交わした約束。
もし玲二がこの島で死ぬ事があれば、褒賞の一つとしてドライと同じ『仲間』にすること。
ドライと新撰組の面子と同じリビングデット。
ドライの立場からしてみれば、エレンに対してこれ以上にない最高の勝利だろう。
もしエレンが死んでも彼女は、『仲間』になれずそのままだ。
『仲間』にしようとするものもいない。
ドライと玲二だけが、永遠に在れる。
玲二の心は永久に得れなかったとしても……。
だが、ドライの心は、渇いている。
できれば、玲二は生きていて欲しかったというのもある。
しかし最大の理由は、それではない。
「決着をつけずしてか……」
できれば、エレンと戦って、そして生きている玲二を勝ち得たかった。
最大のライバルと戦わずしての勝利。
不戦勝という形が彼女の心を渇かせる。
「…………」
玲二を守れなかった自分、そして選ばれたはずなのに彼を守れなかったエレン。
決着をつけたい。
彼女の心の中に、エレンと自分への二つの怒りがふつふつと湧き上がる。
「ぶつけてやるさ……あたしとあいつのどちらの想いが勝つか。
だが、手始めは……玲二をこんな姿にしたやつら。
そいつのケリくらいは、あたしの手でつけさせて貰う。
あいつにだけは絶対にさせない」
【ドライ @ファントム・オブ・インフェルノ (ニトロプラス) 状態○ 鬼 所持品 ハードボーラx2】
【想い託してよりしばらく後】
前話
目次
次話