無題






(水谷とおる……甲斐智久の二つ名を持つ男。奴の後ろにはNECインチャネが……そして倉田英之がいる!)
(坂物語がゲーム化されたら、奴を殺る機は二度と巡ってこないだろう……)
(……させない! 私の覇道を邪魔するモノは、ことごとくこれを排除する!!)
落日の女帝、門井亜矢が走る。
最大のライバルである☆画野郎をアンパンで謀殺し、気が緩んでいるだろう今こそが、
門井が一日千秋の想いで待ち続けた瞬間だった。
手の中の大鎌が確かな重量を伝える。
それすなわち、結晶化した殺意。
門井は自らを黒い刃と化して疾した。

「哀しいですね」

男は、その颶風の前に、あまりに無造作に現れた。
(馬鹿がっ)
ほとんど無意識の動作で門井が鎌を薙ぐ。必殺の間合いだ。
「(会社の)意に駆られることなく……」
……だが、何をしたふうにも見えないその男の姿が幽かに揺れ、凶刃を容易くかわす。
「(会社の)意と一つになり……」
そのまま刃をかいくぐり、鎌の長柄に添う螺旋の動きで門井の懐に潜り込んだ。
「(会社の)意を自由にする……」
次の瞬間、光の粒子を纏ったカウンターの掌底をまともにくらい、門井は宙を舞っていた。
「……それが、最上のゲンガーというものですよ」
門井を瞬殺した男の口調に、だが優越は感じられない。
まるで今はこの場所にいない、遠くの友人に語りかけるように、切なく。
その余韻に、門井は淡く微苦笑した。
「……知っていたの? P-Mateのゲンガー人気ランキングが、テレカ狙いのジサクジエーンだったってこと……」
男はゆっくりと首を否定に振った。
「貴女は、最後の瞬間まで表紙でしたよ」
安らかな表情で、門井は瞳を閉じる。
その頬に、季節はずれの雪がひとひら、哀しく舞い降りた……

「最大の怨敵は、逝きました」
門井を看取った男……リバ原あきがぼそりと呟く。
「それでも貴女は、闘い続けるのですか? 影崎夕那さん?」
メキリ、と枯れ枝を踏み締めて、闘いの隙を窺っていたタルが大樹の陰から姿を現した。

門井亜矢、昇天。
【残り5人?】



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