無題






「なんだよ、これ・・・」
途方にくれた、か細い男の声が廃校の一室に木霊する。

手には自らの自薦原画集があった。
男の名は、りんしん。OVA関係でその名の露出が多々ある。
数々のキャラデザをこなし、細身の金髪美人を必殺技とする男だ。
リニューアルされたワーズワースの原画家といえば解っていただけるだろうか?

原画集は、確かに厚い。
角で叩けば痛かろう。
なにしろ自分の原画集ってあたりが最高に痛い。
だからって、銃や刃物に叶うわけがない。
まさしく最悪の組み合わせだと言える。

「だから自薦原画集って名前はやめてくれって言ったんだ・・・」
-----もはやボヤキすら筋違いなりんしん。
眩暈を覚えながらも、用心しつつ誰にも会わないよう廃校舎の窓から身を乗り出し
村落に向かって歩き出す。

もともと持っていないのだが、武器の確認により殺意は完全に消去されている。
強さ以前にハヅカシクってこんなもん見せられネエ、ってのが本音。
特にあの人に見られた日には-----
「りんしん君?」
「ハイィ!?」
エロ本ご開帳状態を慌てて隠す厨房のように光速で支給鞄に原画集をつめこむ
りんしん。
そこには”あの人”が、門井亜矢が立っていた。

りんしんは決して門井に劣る経歴の持ち主ではない。
能力的には門井を凌駕していると評価する人も多いだろう。
しかし、エルフ社内においては何故か門井に頭が上がらなかった。
-----要するに、精神的にパシリだったのだbェ-----両名共に気がついてない
あたりに彼の悲劇がある。

「やっと仲間になってくれそうな人に会えたよー」
トテトテと歩み寄り、安堵の笑みを浮かべる門井はフランスの片田舎で使って
いそうな草刈の大鎌を両手で持っている。
日本人が大鎌に連想するものは、勿論死神なのだが・・・

「竹井さん、死んじゃったみたいだね」ぽつりと呟く門井。
「ええっ!?」門井が死因の一翼を担っていることなど露とも知らぬりんしんは、
ショックを受けている。
要するに、さっそく門井のペースに嵌っているのだった。

「と、ところで門井さん、それ・・・」
「ああコレ?私の支給武器みたいよ。鞄に入りきってなかったから最初からバレバレ
だったんだけどw」ニッコリ笑う門井。
大鎌と解ってて何の不満もなかったんかい、と心の中でツッコむりんしん。
アンタの笑顔には大鎌がよく似合う、とも心のどこかで思っていたが。

「で、りんしん君は何持ってるの?」
「ハイィ!?」
鞄を後ろ手に隠すりんしん。
大鎌を携え満面の笑みを浮かべて迫る門井。

りんしん最初にして最大の危機(?)であった-----



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