無題






 タケシは焦燥していた。
 海水がまだしとしとと服から垂れ流れて、そして、その手にはハンドマイク――拡声器が握られていた。
 燃料が切れた船の上、助けを求めようと急に船が傾いてしまい、落下してしまったようだ。
 それで、すっかりサトシ達の乗った船とは離れてしまったようだった。ここは何処かの浅瀬で、近くには本島が見えた。
 いや、人がいるかどうかは分からないのだけれど。

 しかし――拡声器を持っているのは幸運だったのかも知れない。
 タケシは速やかに拡声器のスイッチを入れ、叫んだ。
「誰か、聞こえているか? 聞いてたら、今すぐここに来てくれ!」

 言い終わるか言い終わらないかの内に、不意にタケシの足からあるべき筈の感覚が消失した。
 ――足が藻にとられたのだ!
 幾らもがこうとあがこうと、もはやそれは無駄だった。
 それきり、タケシの意識は失われた。


【一日目/D−4/夜】
【タケシ@ポケットモンスター 死亡】
【残り10人】

※D−4周辺にタケシの声が響きました
※D−4に拡声器が放置されました。



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